部下や後輩に慕われる人、嫌われる人は何が違うのか。コミュニケーショントレーナーの司拓也さんは「部下との関係は叱り方で決まる。叱責は『過去の断罪』ではなく、『未来の成功に向けた共同作業』だ。誹謗中傷や人格攻撃は絶対にやめてほしい」という――。

※本稿は、司拓也『信頼される人の話し方 軽く見られる人の話し方』(KADOKAWA)の一部を抜粋・再編集したものです。

叱るときこそ、人間力が試される

「そのミスはあなたの人間性を疑ってしまうよ」

人格を攻撃することは厳禁です。「厳しさも必要だ」という意見はもっともですが、それは「指導」と「誹謗中傷」を混同しています。

人格を否定された部下の脳内では、何が起きているのでしょうか。

コンサルタントのデビッド・ロックは「SCARFモデル」を提唱しました。これは人が行動を起こす際の脳の基本的な動きを説明しています。

1.Status(地位・ステータス):自分は他よりも、劣っているか、優れているか
2.Certainty(確実性):結果を予測できるかどうか、先が見通せるかどうか
3.Autonomy(自律性):自分に選択権があると感じているかどうか
4.Relatedness(関係性):集団に属しているか、集団から外れているか
5.Fairness(公平性・フェア):フェアに取り扱ってもらっているかどうか

SCARFモデルによれば、人格否定を受けると脳は生命の危機に瀕したときと同じ「脅威モード」に切り替わります。結果、合理的な思考や創造性を司る前頭前野の働きを停止させてしまいます。

上司に叱られる従業員
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです

あなたの言葉によって相手は文字通り「思考停止」に陥り、反省や改善どころではなくなります。これが繰り返されると「何をしても自分はダメだ」と、無力感が刷り込まれる「学習性無力感」という非常に危険な状態に陥ります。相手のパフォーマンスを長期的に破壊し、最終的にはあなたから離れていきます。

人を育てる5つのステップ

なぜ人はこのような非合理的な人格攻撃をしてしまうのでしょうか。多くの場合、「根本的な帰属の誤り」という心理的な罠に陥っています。これは「相手のミスは、本人のダメな性格が原因」とする思考の偏りです。

信頼される人は、批判や曖昧な指導を避け「BUILD指導法」で成長をサポートします。

1 Behavior(行動):具体的な行動に注目

「何が問題か」を曖昧にせず、具体的な行動を指摘します。

例:「プレゼンでスライドの説明が早すぎた」ではなく、「スライド3の説明が30秒で終わったので、内容が伝わりにくかった」と具体的に伝える。

2 Understand(理解):行動の背景を理解する

なぜその行動が起きたのか、背景や状況を丁寧に聞き、理解します。

例:「忙しくて準備時間が足りなかったのかな?」と相手の状況を尋ねる。

3 Improve(改善):一緒に改善策を考える

問題を押し付けるのではなく、協力して具体的な改善策を考えます。

例:「次はスライドごとの説明時間を1分に設定して、リハーサルをしてみようか?」と提案。

4 Lead(導く):次の行動を明確に示す

具体的な次のステップを提示し、行動の方向性を示します。

例:「明日、15分のリハーサルを一緒にやって、フィードバックしよう」

5 Develop(期待):未来への期待を伝える

相手の可能性を信じ、成長への期待を言葉で伝えます。

例:「この改善を続ければ、君のプレゼンはもっと説得力が増すよ!」