コメの価格が高騰している。食と農に詳しいライターの市村敏伸さんは「農水省は以前から『コメは足りている』と説明してきたが、実際には足りていなかった。今後出回る2025年産米はコメの生産量が十分に確保できる見通しだが、まだ安心はできない」という――。
自民党農林部会「コメ足りている」は誤り。自民党農林部会の会合で謝罪する農林水産省の幹部ら(左列)=2025年8月8日午前、東京・永田町の党本部
写真提供=共同通信社
自民党農林部会「コメ足りている」は誤り。自民党農林部会の会合で謝罪する農林水産省の幹部ら(左列)=2025年8月8日午前、東京・永田町の党本部

米価高騰を招いたまさかの理由

世間の注目の熱はすっかり冷めてしまったようだが、ここ1カ月ほどで「令和のコメ騒動」に注目すべき新展開が生じた。

農水省がついに、米価高騰を招いた「本当の理由」を説明し始めたのだ。

2022年秋、政府は2023年産米の生産量の目安を、前年を下回る669万トンに設定した。2022年秋はいまだコロナ禍の只中で、コメ需要の回復は難しく、その分だけ生産量を減らす必要があると考えられていたのだろう。

しかし、その農水省のヨミは外れた。2023年以降、インバウンドの復活を含め、コロナ禍からの経済回復は急激に進み、コメの需要量も増加した。結果的に2023年秋以降に出回った2023年産米の量はまったく不十分で、2024年6月末時点での国内の民間在庫量は153万トンという記録的な低水準となった。

つまり、昨年夏以降にコメ騒動が顕在化したのは、2023年産米の生産量が不十分だったことに原因があった。そして、生産量が少なくなった原因は、農水省がコロナ禍からの経済回復などの見通しを読み誤ったことにある。

「コメは足りている」と言い張ってきた農水省

それにもかかわらず、これまで農水省は「コメは足りている。米価が高いのは流通の問題だ」と説明してきた。思い返せば、米価高騰の最初の“主犯”として槍玉に挙がったのは、2024年8月に発令された南海トラフ地震臨時情報だった。政府は当初、この南海トラフ地震に関する混乱によってコメの買い込みが発生したことで、一時的に小売の店頭でコメが不足していると説明していた。

しかしその後、2024年産の新米が出回るようになってもコメの価格は一向に下がらなかった。すると政府は、一部のブローカー的な業者によるコメの買い占め・売り惜しみを原因として指摘するようになった。実際、この時期にはコメと関係のない建設業者などの倉庫からコメの在庫が見つかったり、メルカリなどのフリマサイトで高額なコメの出品が相次いだりしたことが大きな話題となった。そこで政府は、米価安定のための備蓄米放出という前例のない決断を下す。政府が抱える大量の備蓄米を市場に放出することで、コメの流通を止めている業者を牽制しようとしたのだ。そして、今年3月からは実際に備蓄米の流通も始まり、「古古古米」などのキーワードはちょっとした流行語にもなった。