二極化時代を迎えた暗号資産

中米の小国エルサルバドルは、かつて代表的な暗号資産(仮想通貨)の1つであるビットコイン(BTC)を法定通貨に定めた。しかし今年1月29日、議会がBTCによる決済を任意とするように法律を改正したことで、もはやBTCはエルサルバドルの法定通貨とは言えなくなった。つまり、エルサルバドルのBTC化は“失敗”したわけだ。

2024年11月13日、サンサルバドルのレストランでビットコイン決済を促す看板
写真=AFP/時事通信フォト
2024年11月13日、サンサルバドルのレストランでビットコイン決済を促す看板

議会が法律を改正した直接の理由は、国際通貨基金(IMF)が融資に際してそれを条件と定めたことにある。IMFは新興国がBTCのようなリスキーな暗号資産を法定通貨とすることを問題視していたが、加えて政府の管理能力の低さや情報公開の遅れなども問題視しており、エルサルバドルに対してBTC化そのものを再考するように求めていた。

【図表1】ビットコイン相場
(注)週次(出所=Investing)

IMFによる内政干渉だという印象を持つかもしれないが、物事は費用対効果である。BTC化を推進したナジブ・ブケレ大統領が主張するような効果が望めたなら、IMFから融資を受ける必要はなかったわけだ。それどころか、確たる果実もないままに、費用だけがかさんだからこそ、エルサルバドルは白旗を上げざるを得なかったのである。

エルサルバドル国民から支持されず

そもそもBTCは、エルサルバドル国民に支持されなかったことが、各種の調査から明らかになっている。一部の若者は利用したようだが、長らくドルを利用してきた“伝統”はそう簡単に打破できるものではない。ブケレ大統領が華々しく打ち上げたビットコイン・シティ構想についても、全く進展を見ることなく風前の灯火といった状況だ。

エルサルバドルのように、自国通貨が事実上、崩壊した国では、貯蓄や決済の手段として他国通貨や実物資産が用いられる。これは通貨代替、あるいはドル化と呼ばれる経済現象だが、そうした国では、なにより価値が安定した資産が貯蓄や決済の手段に好まれる。BTCのようなボラタイルな暗号資産が国民の信頼を得ることなど無理な話だ。

なおエルサルバドルは2021年9月のBTC化以降、BTCを定期的に購入してきた。この間の相場の上昇(図表1)を受けて、同国のBTCはおおよそ7000万ドル(100億円)程度の含み益が生じている模様である。とはいえ利益を確定していないため、歳入にはなっていない。仮に同額の米債を保有していたら、相応の金利収入を得たことになる。