ティジャニ解任の危機

何やら一大事なので、友人に電話で通訳してもらったところ、ティジャニに専任ドライバー解任の危機が迫っていることがわかった。ティジャニが「コータローの給料が良い」と研究所で自慢したところ、「オレも雇ってくれ」と研究所のドライバーたちが人事マネージャーに殺到。マネージャーと一番仲の良いドライバーがティジャニの代わりに私の専任ドライバーに就任しようとしていた。

このときはまだティジャニがどんな人材なのか判断材料が乏しかったが、給料の額を決める前に外人(←つまり私)のドライバーを務めるとティジャニは決めていた。この男気と私と働きたがってくれることに感動し、最高責任者であるババ所長にお願いしてティジャニがそのまま私のドライバーを続けることになった。男気とか感動ということばは、安易に使うべきではないということを、私はこのあと知ることになる。

よほど嬉しかったのだろう、次の日、ティジャニが満面の笑みでモーリタニアの民族衣装を私にプレゼントしてくれた。この一件で、二人の間には、自分たちで理解し合わなければならないという意識が芽生えた。これからもトラブルは起こるだろうが、そのたびに通訳に頼むのは面倒くさい。電子辞書片手にティジャニと常に一緒に過ごすうちに、何を伝えたいのかお互いにわかるようになってきた。

ティジャニと私をつないでいるものは「金」である。ティジャニのマイカーが故障したり、家が火事になったときには見舞金も包む。自分が支払える最大限の工面をし、生活には十分足りていると思っているのだが、さらにせびってくる。彼のやり口はこうだ。「車の修理に多額の金がかかるんだよなぁ」「入院費用に多額の金がかかるんだよなぁ」。なぜ私に言ってくるのか。それは私がお金を援助するのを知っているからだ。一度援助金をあげてしまったのに味をしめ、ほぼ毎月、何かしらの金を2,3万円渡すことになってしまった。軍資金380万円の資金のうち、月給3万円に加え、2,3万円の出費は痛い。裕福ではないため、切り詰めた生活を送っているので正直、辛い。

要求はエスカレートし、「家を建てて欲しい」「車を買って欲しい」。土台私には無理な話だ。先日も、ティジャニの身内が入院し、不幸があったので3万円ほど包んだ。自分の預金通帳は30万円をきっていた。3倍の給料をもらっているのに、なぜ頻繁にせがんでくるのか。最大の原因は「貯金」をしないからだ。持っているぶんだけ金をどんどん使っているようだ。彼は政府に認められていないガザラと呼ばれる土地に勝手に家を建てており、半年後に土地開発のため取り壊しが決まっているというのに、改築工事に多額の金を投資していたことがわかった。ティジャニは離婚し、前妻に家財道具や米や油などをことごとく持っていかれた。離婚1週間後、1週間お付き合いした女性といきなり結婚式をあげた。給料の4か月分を前借りしてすべて使ってしまった。