日々、医療行為にあたっている医師たちには意外な悩みがある。むさしの救急病院理事長で救急科専門医の鹿野晃さんは「医療現場では、『モンスターペイシェント(患者)』の存在が大きな問題になっている。単なる攻撃的な患者という域を越えて、犯罪行為にまで手を染めてしまう場合もある」という――。(第3回)
※本稿は、鹿野晃『救急医からの警告』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
医者は“お心づけ”をどう受け止めているのか
医療現場では、患者から「お心づけ」として金銭や品物を渡されるケースが現在でもあります。ただ私自身の経験でいうと、誰からいただいたかを失念してしまうこともありますし、何より治療に影響を与えることも一切ありません。
正直なところ人間ですので、もらうと「うれしい」という気持ちがあることは否定しません。時には、自分の畑で採れた大根など、現金以外の「お心づけ」もいただいて心が温まることもあります(妻も喜んで調理しています)。
しかし、ここで強調しておきたいのは、感謝の気持ちは大変うれしくても、結局のところ、「お心づけ」をいただいても何も変わらないということ。診察も治療も、もらおうが、もらうまいが同じなのです。
医療従事者は、全ての患者に対して平等で最善の医療を提供する義務があります。「お心づけ」は感謝の気持ちを表す一つの方法かもしれませんが、それが医療の質や公平性に影響を与えるべきではありません。
日本の医療現場では、とくに大規模な手術や著名な医師による治療の際に、患者やその家族が「お心づけ」を渡す慣習が長く存在してきました。私が医学生だった頃は、病院実習で驚きの光景に遭遇したこともあります。大学病院のお正月の回診。ワゴンにはすでに「お心づけ」を入れる箱が置いてありました。
教授先生は、淡々と診察を進めていましたが、患者が持ち寄った封筒がその箱にどんどん積み上がっていきました。私たち医学生は目を丸くして、「これがお心づけか!」と内心大きな衝撃を受けていました。

