――ただ、指摘されたとおり最近は「全席禁煙」に踏み切る店が増えています。お客の嗜好や利便性を考えたら、これはやりすぎだと感じますか。

【新川】いえ、やりすぎとは思いません。全面禁煙にするのも分煙にするのも、背景にあるのはそれぞれの企業の考え方やフィロソフィーです。たとえば私たちはこう考えます。

レストランという業態で、私たちはいったい何を売っているのか。それは、街の人たちがレストランで快適な時間を過ごすということですし、お酒を飲むことや、ランチやディナーの時間に食事をするということです。そういったことを通じて、私たちはレストランを「街の資産」にしたいと考えています。

だとしたら、タバコを吸う方を一律に排除するだけでいいのかという疑問も出てきます。

重視するのはスタッフの意見

――以前よりは喫煙率が下がったといっても、日本では成人男性の3割超、成人女性の約1割がタバコを吸っています。街の愛煙家をある程度まで受け入れるのは、公共性のある「街の資産」としては自然なことかもしれませんね。
JR品川駅ビル「アトレ」4階のレストラン「エル・カリエンテ」。写真上の右端に並んでいるのが分煙用エアカーテンの吹き出し口。その左側のダイニング席は終日禁煙。

【新川】ええ。ただ一方で、僕はタバコが苦手なんですよ(笑)。

前に勤務していたグローバル・ダイニングは「全面禁煙」の先進企業として知られていますが、同社が20年ほど前に東京・代官山に出店したレストランで、全国に先駆けて全面禁煙を打ち出したのは私です。このときは、お客様の理解をいただくのに、たいへん苦労をした覚えがあります。

私自身は、食事のときに隣のテーブルからタバコの煙が流れてきたら「嫌だな」と感じるほうです。しかし、深夜になってグラスを傾けているときはどうかというと、それほどは気になりません。バーや深夜の時間帯に限って喫煙可能にするという発想は、私のそうした実感がベースになっています。