「還暦ベンチャー」後進に経験伝える
契約書の見本をミラーさんに渡して、融資案を固めてもらう。回答は魅力的だった。金額は100億円、南ア政府が借りて、中央銀行が保証する。日生の単独融資で、期間は3年、金利は約8%の長期プライムレート。当時、南アは人種差別政策を終えて国際社会へ復帰する前で、まだ国際金融界の認知が乏しいため、貸手にかなり有利な条件だ。
だが、東京から「とんでもない、そんなリスクはとれない」と言ってきた。折衝すると、担当部長のところで書類が止まっていた。いろいろと、本社の了解を得ずにやってきたのが、気に入らなかったようで、破談となる。でも、ミラーさんとの縁は続く。帰国後もクリスマスカードの交換を続けたし、彼が65歳で引退した際には、息子の依頼で「友人たちの寄せ書き」に参加した。
「縁尋機妙、多逢勝因」――地蔵本願経にある言葉で、縁は縁を呼ぶ不思議なもので、その縁が生む多くの出会いがいい結果へ導いてくれる、との意味だ。ほとんどの経営者は、そうした縁を多数持つ。だから、連載で2年半前にもこの言葉を引用した。無論、縁は意図して生まれるものではなく、結果を求めるものでもない。南アへの融資こそ実現しなかったが、出口流の出会いの連続は、まさに「縁尋機妙」と言える。
この1月まで米政府で財務長官を務めたティモシー・ガイトナーさんとの縁は、彼が駐日米国大使館にいたときに始まる。本社の課長だった40代初めで、日本の生保が「ザ・セイホ」と呼ばれ、外国の国債を大量に買っていたバブル時代だ。