ところが不確実で変化の速い社会になってくると、誰も正解はわかりません。にもかかわらず、あなた自身が、答えのない環境において、何をなすかを問われます。

会社や上司も自分のことで精一杯で、若手を育てる余裕がない。そのような過酷な環境でも、自ら挑戦し、キャリアをデザインしなければならない。苦難にめげず、むしろ余裕をもって前向きに選択肢を提案できる姿勢が、いわば「資本」として、のちの成功を左右することになってしまうのです。

アメリカのジャーナリスト・バーバラ・エーレンライクが『ポジティブ病の国、アメリカ』という本を書き、糾弾したのは、この問題です。つまり、現代社会では、人はポジティブになることを「規範」として押しつけられている。しかし、人は常にポジティブでいられるわけではない。それは、現代社会の病理だというわけです。

もちろん、エーレンライクの主張には共感できるところもあります。しかし、一方で、私たちは元いた場所に戻ることができないのも、また事実です。ここにジレンマがあります。

それでは、どうすればいいか。わたしにも答えはわかりません。が、いくつかのポイントがあると思います。

まず第1に、しなやかに問い続け、そこから逃げないことです。キャリアや価値観を絶対化、標準化せず、柔軟に、しなやかに考えなくてはいけません。つくった「地図」を歩いてみたら、そこに描かれていない別の道に美味しそうな木の実を見つけた。そうしたら、そちらへ歩いていくことを柔軟に判断すればいいのです。

組織に依存しない「マルチタグド・ライフ」

第2に、組織の枠で物事を考えないことです。

例えば、「大企業だから大丈夫」「ベンチャーだから挑戦できる」などと組織のサイズでものを考えない。挑戦できる大企業もあれば、搾取されるベンチャー企業もあります。組織の枠でものを考えることをやめ、自分自身の組織の実態を見つめ直すことからはじめてはいかがでしょうか。現在、会社や組織という枠を超えて成長機会を見つける「バウンダリーレス(境界のない)・キャリア」という考え方が注目されています。