こと、人材育成に関して言えば、人は「儲けの環境」でしか成長しません。自分の組織でそれが望めないのなら、別の部署で新しい仕事に挑戦したり、成長市場への転職を検討する必要があるでしょう。

私のいる大学院を卒業したある学生は、「マルチタグド・ライフ」というキャリア観を提唱しています。ある企業に勤めていながら、別の会社から仕事を請け負ったり、NPOを立ち上げたり……会社というものは1つの「タグ」にすぎず、複数の「タグ」から成長機会を求めるという考え方です。給料がなかなか上がらないこれからの日本では、こうした働き方が増えてくるかもしれません。

第3に、自分自身の業務経験を「ひとつのストーリー」として語れるようにしておくことです。

いまの社会は多くの物事がコピー&ペーストできてしまう社会だといえます。その中では、資格のようなポータブルなスキルはあまり役に立ちません。他者との差異化の源泉となるのは、コピー&ペーストできないものだけです。その1つが「ストーリー化された経験」でしょう。

人がやっていない新しい仕事に挑戦することは大切です。しかし、挑戦ばかりしていても、経験はストーリーになりません。折りにふれて、自らの業務経験をふりかえり、それを「1つのストーリー」としてまとめることが重要です。それは、「いろんな仕事をしてきたけれど、結局、仕事人生を通じて追求したかったこと、大切にしてきたことは何か」ということを見出す作業です。私も大学に勤める研究者として、自分のこれまでの研究を振り返る時間を意識的につくるようにしています。

4つ目は、社外のネットワークをつくることです。

20代の頃の私は、論文をひたすら書き続けることだけに専心していました。しかし、30歳近くなったとき、自分が生涯をかけて追求したい学問分野をつくり出そうと一念発起しました。その挑戦を支えてくれたのは、大学外の人々とのネットワークです。