EUでは、個人情報の保護を義務付けた「一般データ保護規則」(GDPR)が2016年5月に発効し、18年5月より適用された。日本でも近年、個人情報の保護が強化されているが、これはGDPRの影響を確かに受けた流れだ。GDPRは欧州委員会にとって大きな成功体験になったようだが、それ以外の分野では成果に乏しいのが実情である。

EVシフトに関してもそうである。2035年までに新車からICE車を排除し、実質的にEVに限定するという野心的なルールを導入することで、EUはEVシフトというグローバルなゲームを作り上げ、各国のプレイヤーを巻き込み、自らのその頂点に据え置こうとした。しかし現実は厳しく、むしろEU経済の国際競争力を削ぐ方向に働いている。

EUは中国を目の敵にしているが、もともとEVのようなモノに関しては、中国のような経済に比較優位性があることは明確だ。人件費も安く工業力に富んだ中国は、モノの大量生産に向いている。それにEVに必要な原材料、特に鉱物は中国で採掘される点も大きい。比較劣位にあるEUが産業政策でそれを巻き返すこと自体に無理がある。

政府がすべきことは産業の後押し

筆者は、フォンデアライエン委員長が欧州議会で再任された11月末に、期せずしてベルギーの首都ブリュッセルに居て、有識者と意見を交わしていた。その際、日本ではブリュッセル効果という言葉が一部で肯定的に紹介されているが、当のブリュッセルではその言葉は廃れて、もはや風前の灯火だという意見が聞かれたのが、実に興味深かった。

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欧州委員会はEVシフトというかたちで自動車産業ゲームのルールを変えようとしたわけだが、それが上手く行っていないことは明らかだ。自動車の電動化そのものはメガトレンドだとしても、フォンデアライエン委員長らが描いた戦略観は急進的過ぎたのだ。それにルール改変のために必要なマネーも、EUは中途半端にしか供給しなかった。

EUの財政規律を考えた場合、メーカーが望むような潤沢な支援も不可能だ。それでも、EUはEVシフトという錦の御旗を下すことはできない。その結果が、戦略対話ということになる。自動車産業としては今さらかという感は拭えないだろうし、形だけの対話を試みたところで、自動車産業が陥っている苦境の打開につながるとは考えにくい。

市場経済では、各企業が需要の動向を見据えながら供給の在り方を決める。EUのように、政府が需要の在り方を予測し、供給の在り方にまで口を出すことは、計画経済に他ならない。市場経済において政府がすべきことは企業の後押しであり、統制ではない。この点につき、EUの苦境から日本が学ぶべき点は大きいと言えるのではないだろうか。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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