EV不振の一方で進まない業界のリストラ

ここで、2024年のEUの新車販売動向を確認してみたい。直近のデータが11月までであるから、24年通年のデータは1~11月期の累計台数を年率換算したもので代用しているが、24年のEUの新車販売台数は1060万台程度と前年の1055万台からほぼ横ばいとなる見通しだ(図表1)。2年連続で1000万台の大台をキープしたことになる。

注目されるのは、ハイブリッド車(HV)とEVとで好不調が分かれたことだ。HV車は前年比約2割増となる320万台程度まで市場が拡大し、好調だった。排ガス規制の強化で各メーカーがHVの供給を強化したことが大きかった。他方で、EVは同約1割減となる140万台程度にとどまった。購入補助金がカットされたことが不調の主因だ。

【図表1】EUの新車販売台数(動力源別)

国別には、最大の市場であるドイツでEVの登録台数が前年から3割近くも減少しており、不調が目立つ。EU最大の経済力を誇るドイツでさえこの様子であることが、ヨーロッパにおけるEV不振を端的に物語っている。各社ともEV不振が長引くと予想しており、現状では国際競争力に乏しいと考えているため、事業のリストラを模索している。

世界を代表する完成車メーカーであるフォルクスワーゲン社も、ドイツ国内の工場の閉鎖を計画していたが、労組による強い反発を受けて撤回を余儀なくされた。これではリストラなど進まず、ドイツの自動車産業は競争力を回復させることできない。自動車産業はドイツ経済に深く組み込まれているため、ドイツ経済そのものの不調につながる。

フォルクスワーゲン社などドイツの完成車メーカーは、もともとEVシフトには慎重な立場であったが、欧州委員会に押し切られるかたちで、EVシフトに着手せざるを得なくなった。ドイツの完成車メーカーの苦境は、ドイツ自体の問題も大きいが、欧州委員会が描いた性急なEVシフトという産業政策の影響によるところも、非常に大きい。

限界が明確となったブリュッセル効果

米中二大国の狭間にあり経済力に劣るEUは、規制の輸出に努めることを通じて、国際社会において影響力を行使しようとする。EUが域内市場で規制(ルール)を設け、その域内市場での取引(ゲーム)に各国の事業者(プレイヤー)を参加させ、そのゲームのルールをグローバルに普及させようとする。いわゆる「ブリュッセル効果」だ。