なぜ表紙は常に外国人のモデルなのか
表紙も計算しつくされている。ゼクシィの表紙は、1990年代後半からウエディングドレス姿の外国人モデルが起用されている。
「『花背景』『笑顔の花嫁』『ウエディング感』といった要素が少しでも欠けると、表紙の購入喚起度が下がってしまうんです。例えば、表紙モデルがベールをつけなかっただけでも『ウエディングっぽくない』と認識されてしまう。
なので、表紙担当者もスタッフと共に感覚ではなく、守るべきクリエイティブの指標を抑えつつ、売り上げにつながるコピーを毎号分析して磨き上げてきました。ここがうまくかみ合い出したことが、ここ2~3年でグッと部数が伸びた理由としてあります」
創刊当初は芸能人を起用していたこともあったが、それだとタレント自身の色がつきすぎてしまう。あくまで主役は読者。自己投影できそうでできないラインを目指している。
これほどまでに徹底して売り上げにつながる編集を意識するのには、通常の雑誌よりも広告重視の媒体という背景が大きい。一般の雑誌と比較すると、特集記事と広告の割合が大きく異なる。だから付録付き1000ページ超にもかかわらず300円という定価が可能なのだ。
ゼクシィの収益は、販売収益や広告掲載料のほか、ウェブサイトやアプリ、相談カウンターを通じて式場予約につながった際の手数料などである。
クライアントの多くは式場やジュエリー、フォトスタジオだからだ。いかに読者に情報を届け、式場やお店の予約へつなげられるか。そのことを、通常の雑誌以上に突き詰めざるを得なかった結果が、雑誌の売り上げ好調につながったともいえる。
また2024年2月には、アプリも大幅に刷新。特集記事にもQRコードを埋め込み連動性を高める仕掛けや結婚式検討に必要な情報をより見やすくするなどの取り組みも行っている。
あるカップルから言われたひと言
一方で、売り上げを重視し、大多数が求めるコンテンツを追い求めれば求めるほど、マイノリティの視点が置き去りになりがちだ。
いまや「結婚の代名詞」と言われるまで圧倒的な影響力を持つゼクシィだ。事実婚の形を選ぶ人もいれば、同性婚を希望しているのに叶えられない人たちもいる。こうした人たちに、どう向き合っていくのか。
森統括編集長自身、転機になったと語る出来事がある。ゼクシィでは、現代の人の結婚観を探るため、毎月約10組近くのカップルにグループインタビューしている。この中で、事情があって籍を入れなかった読者にこう言われたという。
「ピンクの婚姻届に憧れて買ったんですが、私たちは婚姻届を出せないんです」
ゼクシィでは、実際に役所に提出できる、ピンク色の婚姻届を定番付録としてつけている。「普通の婚姻届はときめかない」という読者の声を受けて製作したもので、人気のコンテンツだった。しかし、実際に使えていたのは法律婚のカップルだけ。
良いコンテンツを作ってきた自信があったのに、目の前の読者に届いていないんじゃないか――。そこで、2023年5月号には同性カップルでも事実婚カップルでも使用できる「ふうふのきほん宣誓書」を付録としてつけ、以降も度々付録として登場させている。