雑誌の休刊が相次いでいる。そんな中、リクルートが発行する結婚情報誌『ゼクシィ』は紙の雑誌の発行を続け、部数は好調という。どんな取り組みを行っているのか。ライターの市岡ひかりさんが取材した――。

雑誌不況・結婚減の中でも好調なゼクシィ

雑誌不況、と言われて久しい。出版協会の『出版指標 年報 2023年版』によると、雑誌の販売額は、1997年をピークに月刊誌・週刊誌ともに25年連続でマイナスに。休刊やウェブ版への移行も後を絶たない。

そんな中、2022年12月には過去最高の実売部数を記録。以降も好調な売り上げで推移し、部数は10年前とほぼ同水準という“オバケ雑誌”がある。2023年に創刊30周年を迎えた、リクルートの結婚情報誌『ゼクシィ』だ。

人口動態調査によると、婚姻組数は1970年代後半のほぼ半数程度しかない。さらに、結婚しても、式をあげないカップルも増加しているという逆風にもかかわらず、である。

こども家庭庁「結婚に関する現状と課題について」
年々減り続ける婚姻件数

くしくも同じリクルート内では、旅行情報誌『じゃらん』、住宅情報誌『SUUMO』が2025年に休刊することが発表されたばかり。なぜ、ゼクシィは生き残っているのか。

その理由を探るべく、筆者は十数年ぶりに書店でゼクシィを購入してみた。ひときわ分厚いその雑誌を抱え、レジへと向かう。胸に広がる、少しの気恥ずかしさとときめき。その瞬間、脳内は十数年前へトリップした。

「婚約記念品」としての役割

10年間付き合った彼氏から念願のプロポーズを受け、近所のコンビニでゼクシィを購入したあの日。本の重みでコンビニ袋が腕に食い込む痛みさえ幸せで、脳内に花が咲き乱れた記憶が、ありありとよみがえった。

実は、この“ゼクシィを買う”という体験価値こそ、好調の理由を探るカギがある。森奈織子統括編集長はこう語る。

「私たちはゼクシィを、プロポーズされたら購入する“婚約記念品”のように捉えています。もはや結婚情報誌という位置づけではないかな、と。実際、購入者の約半数の方が、この時代に、パートナーの方と一緒に店頭でゼクシィを購入しているんです。

小学校入学を機にランドセルを買うように、プロポーズされたらゼクシィを買う。コト消費として『幸せの象徴』との価値を感じていただいているようです。

今や情報だけならネットでいくらでも得られますが、この体験価値はネットでは代替できないと考えています」(森統括編集長、以下同)