組織改革に手つかずのまま、医療事故が…
そして、レジオネラ対策を開始したばかりのころ、今度はCRE保菌患者が見つかり、一時は16人も保菌者が確認された。
CREは薬剤に耐性が強いため、感染症を引き起こすと治療が困難になる可能性が高い。こども医療センターに入院しているのは基礎疾患を持つ子供ばかりであり、CRE保菌は命取りになりかねない。大腸菌の一種なので、ひどい衛生環境により伝播する可能性が高い。
このように衛生管理に問題があるこども医療センターが、神奈川県の小児医療の最後の砦なのだから、非常に恐ろしい。
そして2021年10月、男児患者死亡事故が発生した。
コロナ対策、レジオネラ肺炎、CRE伝播――。これらの対応に追われ、肝心のこども医療センター内の医療安全体制の改善は手つかずの状態であった。この危機管理対策を怠った一番の責任者は、当時のこども医療センター総長M氏である。
レジオネラ肺炎発生時に、私はこの総長を処分するべきだと機構関係者に提言した。レジオネラ菌が検出された2020年に隠蔽せず、しっかり対策していれば、レジオネラ肺炎は発生しなかったはずだ。その患者は命こそとりとめたが、後遺症が心配される。
この「隠蔽」を何ら問題にしなかったことが、M総長退職後の10月に起きた、男児患者死亡事件の遠因になっている。ずさんな衛生管理はずさんな医療安全管理と表裏一体であるからだ。
病院トップは「救えた命だった」と会見
この死亡事故を巡り、院内調査委員会が報告書を公表したのは、2年近くが経過した2023年9月だった。調査委は事故直後に設置されていたが、その後の動きは全く表に出ていなかった。
私が県議会で厳しく追及した結果、ようやく報告書を公表した記者会見の席上、4月に就任したこども医療センターの新総長は、この男児患者について「救えた命だった」と述べた。
実は、男児患者のご遺族関係者から、私は手紙をもらっていた。レジオネラ菌・CRE問題について、私が医療ガバナンス学会のサイト「MRIC」に投稿した記事の中の「私のこどもだったら、こども医療には決して受診させない」という強い警告を読まれたそうだ。
手紙には、二度と自分たちと同じ悲しみを味わせないようにしたい、というご遺族の気持ちが丁寧に記されていた。手紙を読みながら、私は身が凍るような思いがした。本当に取り返しのつかない事故を起こしながら、こども医療センターのご遺族への対応が非常に冷たく、不誠実なものだったからだ。