東京大学医学部附属病院の患者数が激減している。2008年~2017年の9年間で、入院患者は約3.8万人、外来患者は約10万人減った。患者離れの背景にあるのは、相次ぐ不祥事だ。昨年9月の医療事故では「隠蔽」と疑われる対応もあった。東大病院は今後どうなってしまうのか――。

東大病院で起きた医療事故

東京大学医学部附属病院(東大病院)の医療事故が世間を騒がせている。

2003年01月16日、東京大学医学部付属病院の入院棟外観(写真=時事通信フォト)

きっかけは昨年11月30日、ワセダクロニクルが「検証 東大病院 封印した死」という連載を始めたことだ。第1回の記事によると、昨年9月21日、僧帽弁逆流による重症心不全の治療目的にカテーテル治療を受けた患者が、術後16日目に血気胸の合併症で死亡した。

この患者に用いられたのは、マイトラクリップというカテーテルだ。昨年4月にアボットバスキュラージャパンが販売を開始したもので、新しく開発された医療機器の事故だ。

新しい医療技術は何がおこるかわからない。臨床現場への導入は慎重であるべきだ。厚労省はマイトラクリップを承認するにあたり、さまざまな条件をつけた。特に心機能を重視し、その指標である左室駆出率が30%以上の患者しか使用を認めなかった。ところが、この患者は心機能の低下が著しく、術前の検査では17%しかなかった。本来、マイトラクリップの適応ではなかった。積極的治療が裏目に出たことになる。

治療の経過は正直に説明しなければならない

私は、東大病院の担当医が、厚労省の定める適格基準を守らなかったことを批判するつもりはない。医療現場では厚労省の基準を無視して、患者を治療することは珍しくない。患者は、一縷の望みにかけて、新しい治療を選ぶ権利がある。ただ、どのような経緯であれ、治療の結果が悪かった場合には正直に経過を家族に説明しなければならない。

ところが、東大病院が作成した死亡診断書では、「病死及び自然死」の項目にチェックがあり、「手術」の項目は「無」だった。さらに、医療事故を調査する日本医療調査安全機構にも報告していなかった。常識では考えられない対応である。

12月1日には総合情報誌『選択』が「東大病院で『手術死亡事故』隠蔽事件」と報じた。その直後、参議院厚生労働委員会で足立信也議員が、この問題を取り上げ、「報道が事実とすると完全に隠蔽」と批判した。ここまでの状況を知れば、誰が考えても隠蔽だろう。東大病院の対応は理解に苦しむ。

このような動きを受けて、1月16~17日、厚労省関東信越厚生局および東京都保健福祉局が、東大病院に立ち入り調査に入った。