「回答書は支離滅裂」内部告発も
この時、東大病院に取材が殺到したようだ。1月17日、東大病院はマスコミ各社に「回答書」を送付し、その中でワセダクロニクルと「選択」を念頭に、「断片的な情報にもとづく一連の報道においては、当該患者の背景もふくめて診療経過が過って理解され、結果として事実と大きくかけはなれた、偏った内容が多いことを憂慮しておりました」と説明した。
この文章では「当該患者の治療に至る背景」、「適応について」、「当該患者本人およびご家族への説明について」という詳細な説明があるが、東大病院の態度に疑いを抱くマスコミを説得できなかったようだ。
1月24日に毎日新聞が「東大病院が死亡事故 カテーテル使用の心臓病最先端治療」という記事を掲載した。朝日新聞をはじめ、他のマスコミも追随し、多くの国民が知るところとなった。
その後、ワセダクロニクルは2月7日の配信で、「回答書は「支離滅裂」と東大専門医」という内部告発の記事を配信した。
さらに、朝日新聞など複数のメディアが、東大病院が方針を変更し、この患者の死亡を日本医療安全調査機構に報告していたことを報じた。死亡診断書の記載が間違っていたことを東大病院が認めたことになる。
東大病院の不祥事は今に始まったことではない
ここまでの経過を見ると、東大病院の言い分は信頼できそうにない。このような対応を繰り返せば、社会の信頼を失ってしまう。
実は、東大病院の不祥事は今に始まったことではない。
2013年には、血液腫瘍内科(黒川峰夫教授)が白血病治療薬の臨床研究で、患者に無断で、販売元のノバルティスファーマに患者の情報を提供していたことが明らかとなった。同年には岩坪威・東大教授が代表を務めるアルツハイマー病の多施設共同研究(J‐ADNI)で、データの改竄を指摘された。2014年には、大学院進学を希望する医局員から、教授昇格祝いの名目で100万円を受け取っていた眼科教授が諭旨解雇された。
2015年には、今回医療事故を起こした研究室を主宰する小室一成・循環器内科教授が、前任の千葉大学在籍中に実施したノバルティスファーマが販売する降圧剤の臨床研究で不正を指摘された(ディオバン事件)。千葉大学は調査を行った108例のデータのうち、拡張期血圧の45%、収縮期血圧の44%に誤りがあったとし、東大に処分を求めた。日本高血圧学会は、この論文を撤回した。