小児医療の要だからこそ、立て直しが必要
こども医療センターは機構が運営する5つの県立病院(※)のうちのひとつで、1970年に国内2番目の小児総合医療施設として設立された。小児がんセンターも擁し、神奈川県の小児救急の3次医療機関として重篤な患者の受け入れを担っている。
※足柄上病院、こども医療センター、精神医療センター、がんセンター、循環器呼吸器病センター
私がこの問題を追及している間、「こども医療センターで救われる命もあるのだから、あまり厳しく追及すると医師のやる気がそがれるのでは」という医療・行政関係者、議会関係からのアドバイスがあった。要するに「適当にしておけよ」という声である。
こういう声に対して、私は「ご自分のお子さんが同じ目に遭ったらどうしますか?」と問い、「これまで優秀な医療者は嫌気がさしてこども医療センターから去ってしまった。残った良心的な医師や看護師の個人的な努力によって、命が救われているだけなんですよ。組織としての信頼性は失われているんです」と厳しい言葉を返してきた。
私は、こども医療センターのガバナンスを立て直したい、という強い気持ちを持ち、取り組んできた。組織としての医療安全対策が確立できたと外部から評価されるまで、新規患者を診ることは中止するべきと訴えたいほどだ。
崩壊の予兆「N95マスクの備蓄がない」
こども医療センターのガバナンス崩壊の予兆は、コロナ禍が始まったばかりの2020年春だった。「衛生用品~マスク・手指消毒品・使い捨てエプロンなどが不足しているので寄付してほしい」というお願い文がこども医療センターの医師であるT氏のブログに掲載されていた。こども医療センターの患者家族がよく見るサイトである。
これを知り、私が早速こども医療センターへ視察に行くと、確かに看護師がノーマスクで働いていた。驚いて、在庫などの調査依頼をしたところ、他県のこども病院に比べて衛生用品の備蓄があまりにも少ないことが分かった。
衛生環境を最大限に守らなければならない難病の小児が入院する病院なのに、N95マスクの在庫がほとんどない。しかも、ネット上で衛生用品の寄付をお願いしている。このことが、この病院の危機管理体制はどうなっているのか?と疑い始めるきっかけとなった。
運営主体である機構の会議で、理事に「機構本部としても衛生用品の確保に努力してほしい」と発言してもらったが、「各病院対応になっているから」という理事長の一言で片付けられてしまった。