「1970年代のアメ車」並みに手がかかる

直火型フライヤーは下から火で加熱されるので、油はまず下のほうが熱くなり、上のほうの温度が上がるまでに時間差が生じる。還流型のように油の温度が均一にならない。この熱ムラが独特の「懐かしい味わい」を出しているのではないか――と岩井社長は推測する。年配者が「昔食べたポテトチップスのようだ」と口にするわけだ。

であれば、直火型フライヤーを復活させさえすれば、他のメーカーにも懐かしい風合いのポテトチップスが作れるのではないか? 実は、そんな簡単なことではない。直火型フライヤーは取り扱いが難しいのだ。

岩井社長は菊水堂の直火型フライヤーを「1970年代のアメ車」にたとえる。曰く、「公道でまともに走らせるのは至難の業。古い機械なのでエンジン以外の部品は全取っ替え」。

この直火型フライヤーを導入したのは、岩井社長の父親にして菊水堂の創業者である岩井清吉氏(2022年没)だ。清吉氏は、面倒で手がかかるこのじゃじゃ馬のような機械を、気が遠くなるほどの試行錯誤を重ねて我が物にしてきた。歩留まりに悩まされ、何度も改良し、データを取り、最適な揚げ方を模索した。

「お前にこのフライヤーは扱えない」と先代は言い放った

菊之氏が1984年に入社してからは親子で取り組んだが、当初、清吉氏は菊之氏に「お前にこのフライヤーは扱えない」と言い放ったそうだ。それでも長い年月をかけて、菊之氏はフライヤーの扱いを習得した。とはいえ手間がかかかることに変わりはない。生産規模は追求できない。

効率を求め、歩留まりを極限まで上げることでコストを削減することを目指す大手メーカーに、こんな真似はできない。あまりにコスパが悪すぎる。優劣ではなく、思想が根本的に違うのだ。

筆者がかつて菊水堂を訪問した際、同席した広報担当者は言った。「カルビーがヤマザキパン(山崎製パン)だとすると、菊水堂は街のベーカリー」。そこに菊之氏が言葉を継いだ。

「手間はかかる。けれど味がある」