国内ポテチメーカー10社の中でシェアは0.3%
菊水堂がポテトチップスを作りはじめて間もない1960年代後半、国内にポテトチップスメーカーは100社前後も存在した。しかし1975年に巨人・カルビーが参入すると、その徹底した宣伝・流通・価格施策によって、小さなメーカーが次々と潰れていったのだ。
そして2024年現在、ポテトチップスを一定規模以上で通年製造する国内メーカーは10社程度しかない。トップ3社はカルビー、湖池屋、山芳製菓だ。この3社で9割以上のシェアがあるとされている。
菊水堂も10社のうちの1社だが、そのシェアは、売上ベース、数量ベースともに、たったの0.3%だ。
しかし、不思議だ。なぜこんな中小……というより極小メーカーが、いまだに生き残っていられるのか?
そのもっとも大きな理由が、「できたてポテトチップ」の唯一無二性だ。
50年間同じフライヤーで揚げているから「懐かしい」
「できたてポテトチップ」の原料はジャガイモ、塩、油のみ。大手ポテトチップスメーカーの「塩味」が、「塩味」と謳っていながら、塩以外のアミノ酸系調味料などを味付けに使用していることとは、一線を画す。しかも食塩相当量(塩分重量比)は、他社製の一般的なポテトチップスより低い。有り体に言うなら、非常にヘルシーなポテトチップスだ。
しかし、もっと重要なことがある。「できたてポテトチップ」には、年配者から「昔食べたポテトチップスのようだ」という感想がたびたび寄せられるというのだ。それも当然。その人が何十年も前に食べたポテトチップスと同じ製法で作られているからだ。
菊水堂は、なんと50年もの間、同じフライヤー(揚げ機)でポテトチップスを作っている。
現在、世界中の大半のポテトチップスメーカーに採用されているフライヤーは、「還流型」もしくは「循環型」と呼ばれるものだ。これは、フライヤーの外部で揚げ油を温め、それをフライヤーに循環させてスライスしたジャガイモを揚げる仕組みのこと。細かい説明は省くが、油の温度がフライヤー内のどの場所でも一定、かつ温度変化を少なくできるので、油の劣化を抑えられるという利点がある。
しかし菊水堂が使っているフライヤーは、1990年代に業界からほぼ姿を消した「直火型」と呼ばれるタイプ。フライヤー下部に太い鋳鉄製のパイプが通っており、その中にバーナーで着火した炎が燃え盛っている。鍋を火にかけているのと同じような状態で油をグツグツ煮るイメージだ。