タブー視されてきた「経営の不備」を突いてくる
アクティビスト(物言う株主)と日本の老舗企業との攻防が相次いでいる。対象企業の株式を大量に保有し、経営者との「対話」を通じて企業価値の最大化を働きかけるというのがアクティビストの論理だ。
しかし、経営者にとってアクティビストによる大量の株式保有は買収リスクを想起させる恐怖でしかない。両者の「対話」は、ぎくしゃくし、対立するケースが大半だ。なぜ日本企業はアクティビストに狙われやすいのか。
「アクティビストは老舗企業の経営者にとって、長年タブー視されてきたガバナンスの不備を突いてくることが多く、経営陣にとって“はいそうですか”と安易に与せる提案ではない。言い方を変えれば、現在のガバナンスの否定であり、経営者の交代を伴うことが多い」(市場関係者)ためだ。
アクティビストは老舗日本企業が抱える古い体質を問題視しているわけだが、同時に問われているのは「会社はだれのものか」という形而上学的な課題でもある。
今年3月10日、戦後経済を代表する経営者のひとりが鬼籍に入った。セブン&アイ・ホールディングスの創業者、伊藤雅俊名誉会長が老衰のため死去したのだ。98歳だった。日本に初めて本格的なコンビニエンスストアを導入し、一大流通グループに成長させた立志伝中の人物だ。
不可侵だった祖業にメスを入れた背景
歴史的な節目を感じずにはおれないが、その逝去と軌を一にして同社は傘下のイトーヨーカ堂の店舗を26年2月末までに2割超削減するとともに、グループ発祥のアパレル事業から完全撤退すると発表した。祖業にまでメスが入るリストラを決断した背景には、物言う株主(アクティビスト)による経営陣への強烈な圧力があった。
イトーヨーカ堂はセブン&アイの祖業で、東京・浅草の洋品店「羊華堂」がルーツ。グループにとってヨーカ堂の構造改革は長年の課題として認識されてきた。これまでも不採算店舗の削減等を繰り返したものの、収益は回復せず、22年2月期は112億円の赤字と2期連続の最終赤字に陥っている。
「ヨーカ堂は祖業ということに加え、店舗は地域経済と直結し、雇用維持の要請もあり、リストラは容易なことではなかった」(取引先金融機関関係者)という。
そうした構造改革の遅れに業を煮やしたのが、アクティビストとして知られる米バリューアクト・キャピタルで、22年2月には、75ページにも及ぶ公開書簡「セブン&アイ・ホールディングス グローバルチャンピオンとしての7―Elevenへの変革」を公表、セブン&アイの経営陣のみならず、一般投資家の意見を募る強硬手段に打って出た。バリューアクトとはどんなファンドなのか。