「運用資産について頭を悩ませるのはやめよう」

僕の場合、こうした状況で動じなくなるまでに10年かかった。長期的に見れば、株式市場は常に最高値を更新する道筋を見いだしてきた。だが短期的には恐怖感のほうが金儲けをしたいという欲求よりもはるかに強烈だ。

こんな場面で冷静さを保つほど難しいことは人生になかなかない。投資家のバランスシートが危うくなるのはこういうときだ。作家で金融アドバイザーのガース・ターナーは投資家心理をこんなふうにまとめている。

「私は35年におよぶキャリアのなかで、同じストーリーを何度も見てきた。相場は上昇するのがふつうで、調整のほうが例外だ。景気は拡大期のほうが縮小期より多いし、その幅も大きい。危機は急激だがすぐに終わる。景気後退は頻繁には起こらず、常に短期間で終わる」

バランスのとれた分散型ポートフォリオを運用している投資家は、恐怖を煽ろうとする業界の声に惑わされてはならない、そうした声は株式市場が荒れたときほど大きくなる、とターナーは書いている。「運用資産について頭を悩ませるのはやめよう」と説く。

世界の終わりなのか、そうではないのか

投資家で作家のハワード・マークスは株式市場で大きな危機が発生したときの自分の思考プロセスをこう説明する。

「突き詰めれば、これは世界の終わりなのか、そうではないのかという問題だ。世界の終わりではないのに株を買わなかったら、投資家としてやるべきことをやらなかったことになる」

そう考えれば投資家が何をすべきかは「このうえなくはっきりする」とマークスは言う。

新型コロナ危機が始まった当初、主要な株式指数は軒並み大幅に下落した。S&P500はほんの1カ月ほどで30%以上下落した。これほど急激な下落は過去にも例がない。

数百万人の他の投資家と同じように、僕も市場にくぎ付けになった。投資にまわすお金がある間は、さらなる値下がりを想定しつつETFを買った。

資金が尽きると、もう何もしなかった。同じころ、多くの友人・知人もコンピュータと向き合っていた。長年投資を続けてきた人もいれば、ファイナンスを正式に学んだ人、金融業界で現役で働いている人もいた。

数週間にわたって自分のポートフォリオの価値が急減していくのを目の当たりにした友人たちは、市場の調整は始まったばかりだと結論づけた。そこで保有資産をいったん売却し、さらに値下がりしたところで買い戻そうと考えた。