高卒で三菱銀行に就職し、学歴社会や女性差別を痛感
ちなみに、入社当時は「女性差別」などという言葉はなく、出世レースは男性同士の中で「高卒組と大卒組が机の下で蹴り合いをやっていた」という状況だった。女性社員の採用は高卒のみで、表向きの理由は「女性は24歳くらいで結婚し、仕事を辞めるから、大卒だと仕事を覚えている時間がない」というもの。
「でも、ぶっちゃけた話、女が学問すると生意気になるからということなんです。私も高校3年ぐらいのとき、母親と衝突しました。母親は農村の大きな家の出身で、世間が狭かったから、娘が自分の考えていたことと違う道に進んでいくのが不安だったんだと思います。あの時代の母親としては当然だったんだろうと思いますが」
母親の反対はあったものの、東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)卒業後、銀行に入社した若宮さん。しかし、銀行では当時、高卒組が夜間部や通信教育で大卒資格を得る・修士論文を書くなどしても「高卒」扱いで、逆に大卒組は遊んでいても「大卒」扱い。学力と学歴は別モノと痛感せざるを得ない格差があったと言う。
しかし、時代の変化に合わせて銀行の業務も徐々に多角化。機械の力を得て仕事が面白くなってきた若宮さんは、大卒の中でもエリートが行く業務部企画部門に所属。理解ある上司のもと新商品開発などに携わり、40代くらいには仕事にどんどんのめりこんでいった。
寿退社が当たり前の時代に、試験を受けて管理職になった
さらに管理職への昇進試験があると聞いた若宮さんは、好奇心からチャレンジする。
「人事部に行って『昇進試験があると聞いたけど女性も受けていいんですか』と聞いたら、課長代理が真面目な人で、一生懸命調べてくれて、試験まであと1週間しかないと言うんですね。男性社員には、子どもが家にいると集中できないからということで、奥さんと田舎に行ってもらって試験勉強する人もいる中、私は何の準備もなく、参考書も持っていない。でも、人事部の課長は面白いと思ったらしく、受けなさいと言ってくれ、参考書も自分の使ったものを貸してくれて」
その結果、見事合格。しかし、ご本人は「私は要領が良いから」「男性たちは失敗するわけにはいかない背水の陣だけど、私は冷やかしだから、肩に力が入っていなくて、良い成績をとれてしまった」と、どこまでも自然体だ。
メガバンクという大組織の中で、男女雇用機会均等法施行前の女性は一般職にしか就けない時代、実力のみでキャリアを切り開いていった若宮さん。しかし、キャリアウーマンの先駆者であるという気負いはなく、会社への忠誠心(ロイヤリティ)も感じさせない。常に「自分の頭で考え」自分の足で立っている人なのだ。