立民の「躍進」を報じるマスコミへの疑問
ところが野田代表は総選挙前、自公が過半数を割った場合の首相指名選挙を見据えて「野党の連帯」を強める動きを見せなかった。
野党が乱立する選挙区を他の野党に譲ることもなく、他の野党の主張を受け入れ共通公約をつくることもせず、とにかく立憲の議席を増やすことだけを追求し、他の野党の反感を買っていたのである。野党第一党として野党陣営を束ね、首相指名選挙で自公に勝つ「地ならし」を全く行っていなかったのだ。不退転の決意で政権交代を実現させるつもりだったとは私には到底思えない。
立憲は前回総選挙で惨敗し、解散前は98議席にとどまっていた。野党第一党としては少なすぎる。自民党に裏金問題の大逆風が吹き付けるなか、誰が代表を務めても立憲が議席を伸ばすのは当たり前だった。
今回の総選挙でいきなり政権交代は無理だ、まずは立憲の議席を少しでも上積みして野党第一党の立場を確立しよう、立憲が議席を大きく伸ばせばマスコミは「躍進」と報じて代表の座は安泰だ――。野田代表の腹づもりはそんなところだったのではないか。
だからこそ他の野党に譲歩せず「立憲ファースト」を押し通したのである。「政権交代の千載一遇のチャンス」という野田代表の言葉は、政権交代の機運を高めて立憲の議席を増やすための方便だったとしか思えない。自民党が裏金問題で自滅した「政権交代の千載一遇のチャンス」を、もっぱら「立憲の議席増」のために費消してしまったのである。
野党第一党の責任をハナから放棄していた
野党各党は共闘体制を築けず、相互の信頼関係もないまま、乱戦模様で総選挙に突入した。野田代表は選挙戦で自民党の裏金批判に徹し、政権交代が実現した後の野党連立政権の具体像については何も語らなかった。
それでも立憲が自民党を抜いて比較第一党になれば、立憲中心の野党連立政権を誕生させる機運が高まったかもしれない。けれども立憲は50議席伸ばし148議席を獲得したものの、惨敗した自民党の191議席に遠く及ばなかった。
立憲が50議席を増やしたのは、小選挙区で自民候補を落選させるため、立憲支持でなくても立憲候補に投票した有権者が多かったからだ。その多くは比例代表では立憲に投票せず、国民民主党やれいわ新選組に投じた。
立憲の比例票は1156万票で、惨敗した前回総選挙から7万票しか増えていない。「自民も立憲もイヤ」という二大政党への拒否感が、国民(比例617万票、獲得議席は4倍の28)とれいわ(比例380万票、獲得議席は3倍の9)の大躍進を生んだのだ。
こうした経緯を振り返ると、自公の過半数割れが実現した時、野田代表を首相に担ぐ野党連立政権の機運が高まらなかったのは、必然の帰結といえる。国民やれいわは自公だけではなく、立憲とも激しく戦った。野党陣営の戦線は最初から崩壊していた。
自民党が公明党とタッグを組んで候補者を一本化したのと対照的に、立憲は野党各党を束ねて政権交代を狙う野党第一党の責任をハナから放棄していた。自公過半数割れが実現しても、野党連立政権の機運が高まるはずがない。