7歳差の夫婦なら「約280万円」もらえる

夫の剛さんは、大学を卒業後に企業で定年の60歳まで働き、65歳まで再雇用されていました。従って「厚生年金被保険者期間」は20年以上あり、現在65歳ですから、配偶者の58歳の明美さんは加給年金の対象です。

つまり、この条件であれば、自身の厚生年金に上乗せで年間約40万円の加給年金が受け取れます。夫婦の年齢差は7歳なので、7年間の合計額は約280万円です。

相談に訪れた剛さんの主張は、次の通りでした。

年金は妻が65歳になるまでの7年間繰り下げて72歳からもらおう。そうすると年金額「約317万6000円」になるので生活にもゆとりができるから良いだろうという算段です。もちろん年金額は毎年経済状況などにより変動するので固定ではありませんが、おおよその目安として考えます。

具体的には、ねんきん定期便に記載された、65歳から支給される剛さんの年金額は約200万円。

でも繰り下げ制度を利用して受取り時期を遅らすと、1カ月あたり0.7%ずつ年金額が増えて約318万円(0.7%×7年×12カ月=58.8%増額)。年間100万円以上もの差がつくのですから、今もらったら絶対損だ、と考えていたのです。

どうやらYouTubeのお金系の動画で少し学んだこと“だけ”をうのみにしていたようなのですが、剛さんには見えていない、明らかに見落としている点が3つありました。

“知らない”ことで損する可能性があった

1つめは、そもそも「加給年金」という制度を知らなかったことです。申請さえすれば、追加で年間約40万円、7年間の合計で約280万円がもらえることを伝えました。

2つめは、「家計に余裕がなかった」という点です。剛さんは、繰り下げ期間中は退職金や貯金を使いながら、アルバイトでもしたらなんとかなるだろうと気楽に考えていました。

しかし、退職金のほとんどを住宅ローンの完済と水回りのリフォームにあててしまったため、7年間の生活費を取り崩せるほどの蓄えがあるかと言われると微妙なところでした。繰り下げの年金増額にばかり気を取られ、足下の生活設計ができていなかったのです。

3つめは、「2人が思い描く老後生活を送るためのお金の優先順位」という視点です。剛さんになぜ口論になったのかと聞いてみたところ、どうやら妻の明美さんが「元気なうちに旅行したい。それの資金として、加給年金を楽しみにしていた」と話していたようなのです。

明美さんは、同世代の友人夫婦たちが“加給年金を使って老後生活を充実させている”という話を耳にしていました。自分も年の差夫婦だからこそ、「夫がいつ亡くなってしまうかわからない」「2人が元気で動けるうちにいろんなところに行きたい」と強く思っていたそうなのです。

写真=iStock.com/PonyWang
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