損をしない老後生活を送るには、どうしたらいいのか。ファイナンシャルプランナーの山中伸枝さんは「厚生年金には、年齢差のある夫婦がもらえる“家族手当”のようなものがある。活用すれば充実した老後につながるが、“申請しないともらえない”ことに注意が必要だ」という――。
年金手帳と預金通帳
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年齢差があれば追加でもらえる“お金”

人生100年時代と言われながらも、多くの方は老後を年金に頼ることになります。大半の方は定年後も再雇用で働き続け、65歳以降に受給を開始しようと考えているのではないでしょうか。

この話をすると、「年金は75歳近くまで『繰り下げ』たほうが額が増えて得なのでは」とか「いつ死ぬかわからないから60歳から『繰り上げ』たほうがいいのでは」と相談を受けるのですが、この二択を考える前にぜひとも知っておいていただきたい制度があります。

それは「加給年金」という制度です。

あまり知られていませんが、これは厚生年金の「家族手当」のようなものです。年齢差がある夫婦など様々な条件がありますが、最大で年間約40万円を受給できます。つまり、年齢差が大きければ大きいほど額は増えるのです(※諸条件があります)。

厚生労働省によれば、夫婦2人分の標準的な年金額は、月額23万483円(令和6年度)です。これは、夫が平均的な収入(給与と賞与の平均額)月43万9000円で40年間就業し、妻はずっと専業主婦という設定での試算です。

この額では、実際生活していくとなるとかなり厳しいと感じる方も多いでしょう。

年金生活となっても税金や社会保険料の支払いは続きますし、医療費や介護費の負担や家のリフォーム代などで支出が膨らみ、手元にわずかしか残らず生活に不安を抱えるという声もよく耳にします。だからこそ、年金についても「もらえるもの」なら少しでも多くもらいたいと考える方がほとんどと思います。

加給年金は「申請しないともらえない」

ここまで読んで「うちも年齢差がある夫婦なので加給年金がもらえる、ラッキー!」と思った方は相当数いるかもしれません。ただ、気を付けるべきことが一つあります。

それは、加給年金は「自ら申請しなければもらえない」ということです。年金事務所から「お知らせ」などの通知も来ないので、残念ながら知らないまま条件を外れて損をしてしまった方もいらっしゃるかもしれません。

今回ご紹介(※)するのは、65歳の森田剛さん(仮名)と58歳の明美さん(仮名)の7歳差夫婦です。筆者のもとに相談に訪れたきっかけは、年金の受給開始年齢となった剛さんが「額が増えるから」という理由だけで強引に年金を繰り下げようとしたため、夫婦で口論になったことでした。

非常によくあるケースなのですが、剛さんはそもそも「加給年金」のことを知らず、当初は繰り上げ・繰り下げの二択だけで考えてしまっていました。

実はこの加給年金は、厚生年金を繰り下げしていると受け取れなくなってしまいます。7歳差の夫婦が受け取れる加給年金は、年間で「約40万円」、フルの7年間で「約280万円」です。もし繰り下げを強行していれば加給年金を受け取ることはできず、大きな損失になってしまう可能性がありました。

ぜひとも皆さんには今回の事例を通じて「加給年金」への理解を深めていただき、「損をしない老後生活」を送るための参考にしていただければと思います。

(※個人の特定を避けるため、一部を変えています)