西側スパイと中国スパイの“決定的な違い”

西側の対応が遅れたもう1つの理由としては、中国の諜報活動の目的や方法が西側と異なることによる独特の難しさがある。米国連邦捜査局(FBI)で対諜報活動を担当するロマン・ロジャフスキー氏はその違いをこう説明する。

「中国のスパイにとっては中国共産党の地位を守ることが一番の目的です。そのために中国は経済成長を実現する必要があり、スパイは西側の技術獲得こそ国家安全保障上の最重要課題と考えている。そして中国のスパイは入手した情報を国営企業に共有するが、西側の諜報機関は自国企業にそのようなことはしない」(前出・BBC NEWS JAPAN)。

つまり、西側では民間企業が経済スパイを行うことが多いが、中国では政府の諜報機関がそれを主導し、国営企業を積極的に支援している。政府と企業が一体となって経済スパイを行っている中国に対し、西側各国が対抗するのは容易なことではない。ちなみに中国が諜報活動に投入している人員リソースは約60万人と推定され、他のどの国よりも多いという。

また、CIA(米中央情報局)やMI6など西側の諜報機関が中国国内で活動する際の独特の難しさもある。中国内では顔認証やデジタル追跡技術の発達によって監視体制が徹底しているため、現地で工作員や協力者に直接会って情報収集するという伝統的な人的諜報活動がほとんど不可能だという。

いままで以上に日本が狙われやすくなったワケ

BBCニュースによれば、中国は約10年前、CIAが現地で張り巡らせていた大規模な工作員のネットワークを一掃したそうだ。

さらに付け加えれば、世界的な通信傍受とデジタルインテリジェンスを担当する米国のNSA(国家安全保障局)や英国の通信傍受機関GCHQにとっても中国は技術的に難しいターゲットになっている。理由は中国が西側と異なる独自の技術を使っているからだという。

他の西側諸国と同様に日本でも中国のスパイによる被害が増えている。

2020年10月、大手化学メーカー、積水化学工業の元社員がスマホの液晶画面に使われる技術を中国の通信機器会社に不正に漏らしたとして不正競争防止法違反容疑で書類送検された。

元社員が電子メールで技術情報を送った相手の中国企業関係者は、世界最大級のビジネス関連情報のSNS「リンクトイン」を使って接触してきたという。大阪地裁は2021年8月、元社員に懲役2年と罰金100万円、執行猶予4年を言い渡した。

写真=iStock.com/Fahroni
※写真はイメージです

また、2021年4月には宇宙航空開発機構(JAXA)など国内約200の企業や研究機関へのサイバー攻撃に関与したとして、警視庁公安部が中国共産党員でシステムエンジニアの30代の男を私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで書類送検した。警察当局は中国が軍の組織的な指示で高度なサイバー攻撃を仕掛けていたとみて、攻撃を受けた組織に注意喚起した(日本経済新聞、2021年4月20日)。