施設の夜間担当者のトレーニング不足があったのでは

大事故、大出血であったのに8時間も救急車を呼ばずに放置されたのは、夜間担当者のトレーニング不足と危機意識の欠如のためである(介護施設にマニュアルの開示を求めたが応じてくれなかった)。第二に、入所者にとってもっとも大事な安全対策を「身体拘束」として徹底して排除しているからである。介護老人福祉施設基準第11条第4項に次のように記載されている。

「……身体的拘束その他入所者の行動を制限する『身体的拘束等』を行ってはならず……」

私と長女(医師)は、入所前に、繰り返して安全対策について施設に質問し、対策を依頼した。ベッドの脇に勝手に下りられないよう、病院と同じ保護柵をおくこと、夜間ベッドから下りたときに分かるように、センサー付きのシートをベッドの下に置くよう頼んだが、聞いてもらえなかった。24時間見守りするのでご安心下さいという説明だけであった。上記の施設基準には、「生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き」と付記されているのに、その手続きを取ろうとしてくれなかった。

「身体拘束」はベッドだけではない。車椅子の安全のためのシートベルト、衣服を勝手に脱ぐのを防止する介護衣、点滴を抜くのを防ぐミトンの着用など、すべて「身体拘束」として禁じられている。

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安全のための「拘束」が必要なケースもある

私は、若い頃、精神科病院で当直をしていたことがあったが、その頃の「身体拘束」は確かにひどいものであった。しかし、上に述べたような措置は、「拘束」と言うより「安全策」である。車のシートベルトは疑いなく「身体拘束」であるが、もっとも有効な「安全策」として、法律で着用が義務化されている。

私の妻のような悲劇を二度と起こさないためにも、上記の施設基準は次のように書き改めるべきである。

「入所者の安全のために必要な場合は、医療関係者(医師、看護師、介護士など)の了承と入所者および家族の了解の下に、行動制限を含む必要な安全策を講ずることが出来る。」

現在、妻はそれほど立派ではないが、安全対策を取ってくれる施設に入っている。今回の事故で、高齢者ホームはホームページの立派さなどの見かけで選ぶものではないことが分かった。どこまで、入所者の安全を考えてくれるかが大事なのだ。