タワマンが抱える“震災リスク”

公務の合間を縫って、約1時間のインタビューに応じた久元市長。何度も強調したのが、都市の“持続可能性”だ。

「マーケットのニーズとしては都心に住みたい。マーケットに委ねると都心は高層タワーマンションが林立する街になります。高層タワーマンションが林立する街は遠目には繁栄しているように見えるけれども、持続可能性の面で大きな問題がある」

日本のほとんどの自治体が避けられない人口減少。それを前提として考えたとき、“タワマン”は都市の持続可能性を奪いかねないという。熟慮の結果、神戸市は中心市街地にタワマンを林立させることに否定的態度をとるという判断を下した。その背景には、神戸市ならではの経験があった。

まず、市が懸念しているのが、中心市街地への人口集中による防災上のリスクだ。1995年の阪神・淡路大震災。道路や水道などのインフラも大きな打撃を受け、自治体は被災者の対応に追われた。

写真=共同通信社
阪神大震災で高架が倒壊し、大きな被害が出た阪神高速道路の鉄筋コンクリート製の橋脚=1995年1月17日、神戸市東灘区

久元市長は震災の経験をふまえて、次のように語った。

「極めて狭いエリアに大量の高層タワーマンションの居住者が出てくることは、災害時にも懸念があります。神戸は29年前に震災の経験をしました。水道は90日くらい供給停止。下水は100日以上停止しました。その時は高層タワーマンションはまだ少なかったけれども、もしもこの都心の極めて狭いエリアに高層タワーマンションが林立することになれば、長期間大量の被災者が、エレベーターが止まったマンションの中で暮らしていけるでしょうか。そういう災害対応の懸念があります」

都市への人口集中には問題がある

「行政のリソースには限界があります。高層タワーマンションの中に被災者が多数取り残され、そこをケアしなければいけないことになれば、全体の災害応急対策のオペレーションが影響を受けるでしょう。全体最適を考えた時に、人口が都心に集中することは問題があります」

「そう考えれば、神戸市として三宮駅に近接するところは、そもそも居住目的の建築物はできないようにする。その周辺の商業エリアは、容積率のボーナスをなくして、高層タワーマンションを建てにくくなるようにしました。今、建設中のタワーマンションがありますが、これは私が市長になった時にすでに計画が決まっていたものです。これが最後で、今のルールが維持される限りにおいて、神戸で高層タワーマンションが建設される可能性は極めて低いのではないかと思っています」