日本人の特性を突いた「バリューセット」

日本人は「丸め」るのが好きというこの特性を突いた戦略が、皆さんの中にもご存知の方が多いであろう「バリューセット」でした。

1990年代半ばといえば、バブルが崩壊したあとの時代です。それまでの嘘のような好景気は一転、日本国内には厳しい不景気の波が襲いかかってきていました。

1990年から売上が低迷していた日本マクドナルドは、そうした状況で「デフレ社会が来る」と予測を立て、1994年に新しい価格戦略「バリューセット」を打ち出したのです。それまでは、各種ハンバーガー、マックフライポテト、ドリンクのセットを490円、590円、690円といった価格で販売していました。

それらを400円(ハンバーガー・チーズバーガー)、500円(フィレオフィッシュ、てりやきマックバーガー)、600円(ビッグマック)というお得感を感じられる3つの価格帯で販売することにしたのです。しかも、これを期間限定のキャンペーンではなく、恒久的に続けるキャンペーンとして打ち出しました。

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これは、バブル崩壊後に懐事情が厳しくなった日本人に広く受け入れられ、絶大な反響がありました。不景気の時代に企業が商品の価格を下げてくれたら、誰だって嬉しいものです。

バリューセットという戦略は、先のハンバーガーの値下げと相まって、日本での売上を飛躍的に伸ばす原動力となったのです。

原価率の高いものと低いものをセットに

実は、それまでのマクドナルドでは、「ハンバーガーを単品で買う客」が多いという事情がありました。ハンバーガーが210円で、それにマックフライとドリンクも付けてセットにすると高くなってしまうので、お客様の中には単品でハンバーガーを食べて満足するという人がそれなりの割合で存在していました。

ドリンクとマックフライは比較的原価率の低い商品であり、逆にハンバーガーは原価率が高い商品でした。ということは、多くのお客様にハンバーガーだけを注文されると、原価率が高い商品しか売れないことになり、マクドナルドの利益は縮小してしまいます。

そこで、ハンバーガー、ドリンク、マックフライのセット価格を思い切って下げることで、単品のハンバーガーを買おうとしている人にもセットで買ってもらえるようになるのではないかと考えたのです。これは結果的に大当たりで、バリューセットをリリースする前のテストでは、実に70%もの人が単品ではなくバリューセットを買うという結果が出ていました。

原価率の高いものを単品で買われるよりも、その商品を原価率の低い商品とセットで買ってもらうほうが、客単価が上がり、利益率も上がり、売上がアップします。

そのメリットはもちろんお客様のほうにもあります。それまでは価格のことを考えて、ハンバーガー単品で我慢していたお客様が、低価格でドリンクも一緒に注文できるようになるわけですから、特にお持ち帰りのお客様などにはたいへん喜ばれていました。

マクドナルドにとっても、お客様にとっても、Win-Winの戦略、それがバリューセットだったのです。