あえて「不安定な状況」をつくる理由
トヨタは変化する会社だ。なかでも生産現場はトヨタ生産方式が定着しているからつねにカイゼンして、変化させている。
学園も同じだ。時代に合わせて授業内容を変えている。やすり掛けのような基本実技はそのままやっているが、今では組み立てのようなメカニカルな授業よりもむしろパソコンを使ったソフト開発、コードリーディングなどの授業を増やしている。車がモビリティに変わるのだから授業内容もまた従来と同じというわけにはいかない。
トヨタの現場では仕事のやり方を変える際に決まりごとがある。
それは状況を不安定にすること。
状況を不安定にするとムダがあぶりだされてくる。たとえば、10人で担当していた生産ラインからひとり抜いてみる。すると、半日ほどは残りの9人は大忙しの様相を呈すけれど、いつの間にか平然と仕事をするようになる。一度、不安定な状況を作ると、人間は考え始める。自然のうちにムダを省いて9人でできるようになる。
人間は自分からはなかなか変わろうとしない。変わるには外的な条件を与えて、その対処をうながす。対処した行動がすなわち変化後の作業となる。
変化するには外から刺激を与えるしかない。教育、指導とは外からの刺激であり、教師が「自分から変われ」と言い放つのは無責任だ。変わる、新しい行動を促すには指導するしかない。学園やトヨタの現場では教員や上司が刺激という指導を与えている。
カイゼンは「1本のねじ」を考えることから始まる
トヨタの現場で見ていると、カイゼンとは小さな発見から始まっていることがわかる。建屋の通路にねじが1本落ちていたとする。それを見つけて「どうして落ちたのか、どこから落ちたのか」と考えることがカイゼンの第一歩だ。そして、原因を特定し、再発防止策を決めて実行することが問題の解決だ。
ちなみに、わたしは他の自動車会社の工場も3社、見学したことがあるが、どこでも、ねじの1本くらいは落ちている。建屋の隅にはさまざまな用具や部品が立てかけてあったり、置かれていたりする。それが普通の工場だ。
だが、トヨタの工場では通常、ねじは落ちていない。たったの1本も落ちていない。だからこそ作業者は足を止めて、考え始める。他の工場では、ねじの1本くらいは落ちていることがあるから問題の発見にならない。話はそれるけれど、トヨタの工場、オフィスへ行って天井の蛍光灯(LED)が切れているのを見たことがない。これまた他の工場やオフィスではひとつくらいは切れていたり、切れかかっていたりする。