「スマイル社は会見にも個別インタビューにも応じない」

NHKの起用再開発表の数日前、被害を告発した旧ジャニーズ事務所所属の志賀泰伸氏らが日本記者クラブで会見を開いたが、TBS社会部の記者が質問の中で、スマイル社側が会見にも個別インタビューにも応じない、と指摘していた。

写真提供=共同通信社
旧ジャニーズ事務所の性加害問題で記者会見する(左から)長渡康二さん、志賀泰伸さん、中村一也さん=2024年10月9日、東京・内幸町の日本記者クラブ

会見後、記者たちが会見場で自然と輪になり、「うちも同じ状況」などと手詰まり感を話していた。志賀氏らのこの会見も、報道陣が詰めかけた1年前に比べて、記者の数は目に見えて減っていた。それでも集まった記者の多くは女性だった。これは何を意味しているのだろうか。性暴力の深刻さを深く認識していると思われる彼女たち現場記者の声は、岩盤のように社の上層部を固めている男性幹部たちに届くのだろうか。

現場と上層部の間の回路が切れ、制作と報道など縦割り部門間の分断が露骨。多くの日本の組織の縮図のような光景であり、また性暴力が長年軽く扱われてきた社会の反映とも言えるだろう。

警察も検察も動かず、国も調査委員会を立ち上げなかった

1年前にも、ジャニー喜多川事件について何本か記事を書いたが、結局のところ、その時主張したほとんどのことがいまだに実現していない。全容解明もされていないし、公的な第三者機関による調査もされなかった。事務所のスタッフ2人がタレントに性加害をしていたことが明らかになったのに、警察も検察も動かなかった。政府は終始「個別の企業の問題」といった態度を決め込み、立憲民主党の議員たちが国会ヒアリングを何度か行ったが、海外の類似事件のように、国会が調査委員会を立ち上げるようなことは起きなかった。再発防止策の詳細もよくわからない。

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こうした結果をもたらした原因の一つは、国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会が勧告したように、政府から独立して人権を守る組織が日本にないためだろう。その時々の警察や検察、政府や国会が動かなくても、人権を守ることを業務として司る「国内人権機関」があれば、問題を調査し、提言を行い、被害者を救済できる。今回の件でも、被害者が被害申告の際に無力感に陥った場合、こうした機関に助けを求めることも可能だっただろう。

あまりに多くのことが実現してこなかったが、現時点で一つ提案するとすれば、スマイル社は金銭補償が終わった後も、被害者の心のケアをずっと継続していくことを望みたい。もし5年10年と、長期にわたって一人ひとりの心のケアを地道に行う活動を続けていけば、スマイル社と旧ジャニーズ事務所の社会的評価も変わっていくだろう。