NHKは方針転換の前に、再検証の結果を報じるべきだった

何より報道機関として、実際に被害申告者に取材して報道することができたはずだ。それはメディアが、通常の利害関係者とは大きく異なる点だ。しかし、「性暴力を考える」という長期の取り組みをしていながら、ジャニー喜多川事件の被害者に対して、タレント新規起用の再開発表前には、そうした報道をしていない。

NHKは報道機関として「何をしてこなかったか」ということについて、本当に反省しているのだろうか。自分たちとは切り離しつつ、まるで他人事ひとごとのように性暴力について報じているということはないのだろうか。

スマイル社によると15日現在、被害申告者1000人のうち530人に補償内容を、213人には補償しないことを通知したという。530人のうち95%に既に補償金を支払い済み。残り237人からは、複数回試みても返信がない状況。また、他20人との間で補償内容の算定や在籍確認などの手続きが進行中だという。

だがスマイル社は、こうした数字の発表をサイト上で行うだけで、記者会見を開いて説明しようとしないので、詳細がわからない。

例えば、「連絡が取れない」人たちの中に、被害体験を話すことや周囲の人々に知られること、誹謗中傷ひぼうちゅうしょうされることへの恐怖があり、手続きを続けることを躊躇している人たちがいる可能性もある。同様の理由から、申告自体をためらっている人たちもいる可能性がある。

性被害者の声を伝えていくのも、テレビ局の役割では

実際、解散した「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の副代表だった石丸志門氏は、「家族に知られるのが怖い」と被害申告ができないでいる人たち複数から相談されたことを、朝日新聞の記事で語っている。そのうち3人は申告しないと決めたという。

別の朝日新聞の記事では、被害申告をしたが、補償を拒否された人たち2人が、実名・顔出しで報じられている。「関係資料と突き合せて協議も行い、可能な限り検証したが、事実を確認できなかった」ことなどが理由だったが、「詐欺呼ばわりされてつらい」などと話している。

こうした人たちの声を伝えていくことも、メディアの役割ではないだろうか。不祥事を起こした企業のその後の対応について報じる際、企業側の発表だけでなく、被害者側の受け止め方を伝えるのは当然のことだ。そうした報道の役割を果たさず沈黙すること自体が、利害関係者としてビジネスに都合の悪いことは看過している、と見られてしまう恐れはないか。