旧ジャニーズ事務所の性加害問題は、なぜ長年見過ごされてきたのか。放送プロデューサーのデーブ・スペクターさんは「日本のテレビ局の構造がひとつの要因だ」という。脳科学者の中野信子さんとの対談をまとめた『ニッポンの闇』(新潮新書)より、一部を紹介する――。(第1回)
ジャニーズ事務所(当時)の東山紀之新社長(左)と引責辞任した藤島ジュリー景子社長(右)が、故創始者の性的虐待疑惑に関する記者会見で報道陣の質問に答える(2023年9月7日、東京都内のホテルで)。
写真=AFP/時事通信フォト
ジャニーズ事務所(当時)の東山紀之新社長(左)と引責辞任した藤島ジュリー景子社長(右)が、故創始者の性的虐待疑惑に関する記者会見で報道陣の質問に答える(2023年9月7日、東京都内のホテルで)。

「ジャニーズ性加害問題」でもっとも深刻なこと

【デーブ】どこのメディアも最高裁の結果くらいはきちんと報じるべきだったでしょ。そこはもうメディア側の忖度そんたくだよね。あるいは事務所の力。

【中野】時代的なこともあったんですかね。今ほどセクハラだパワハラだに厳しくないとか、男性の性被害に関心が薄かったとか。

【デーブ】それもあったかもね。コンプライアンスって言葉自体一般的じゃなかったし、女性が性被害を受けた場合と違って、男性の場合、そのこと自体を笑い話にしてしまったり、周囲も「しょせんいたずらでしょ」って見なしてしまったりということもあったかもしれない。

NHKの『クローズアップ現代』が当時の検証を行っていましたけど、元司法担当デスクという人がそういう趣旨のことを言っていますよね。「男性の性被害の問題に関心が低かった。問題視すべきという認識がなかった」って。

【中野】そういう経験を「武勇伝」みたいにしちゃう人もいれば、深刻なトラウマになってしまう人もいる。個人差もさまざまだから、なおさら表に出しづらいということもあったのかもしれない。

【デーブ】一方で「枕営業」みたいな言葉もあるしね。実際、そうやって芸能界で自分の居場所を作るきっかけにする人もいる。男性だって女性だって、誰とは言えないけど。しかもそれって別に芸能界に限ったことじゃないし、日本に限ったことでもない。

ただ、この問題がおぞましいし、深刻なのは、相手が未成年だってことですよ。子供相手だったってこと。それはね、人生を変えてしまうくらい大きなことで、そこはほんとに罪ですよ。

日本における児童の性的被害

【中野】しかもそれが何百人、もしかしたら4桁になるかもしれない。

【デーブ】きちんと報じられていたら、ジャニーの行為も止まって、そこまでの被害は出なかったかもしれない。そこはやっぱりメディアの罪だし、検証しないといけない。

【中野】これはジャニーズの問題に限らないですけれど、児童の性的被害の問題って日本はけっこう深刻なんですよ。

1999年の日本性科学情報センターによる日本で初めての大規模調査(『子どもと家族の心と健康』調査報告書)では18歳未満の女子の39.4%、男子でも10%が性的被害を受けているっていうんですね。13歳未満でも女子の15.6%、男子の5.7%が被害に遭っている。

性的被害の影響としてはPTSD、解離性同一性障害をはじめとする精神疾患、自殺念慮、薬物濫用などが指摘されていて、性的被害を告発した元ジャニーズのメンバーにもそうしたことを告白している人もいましたから、その人の人生に及ぼした影響は計り知れないですよね。