ジャニーズタレントを起用してきたメディアは変わったのか

ジャニー喜多川児童性加害事件を通じて、メディアは一体変わったのだろうか。ことテレビについては、首を傾げざるを得ない。各局の検証番組でも示唆された、制作部門と報道部門の乖離かいりが解消しているとは思えない。

ジャニー喜多川事件の特徴は、メディアが犯罪の「共犯」として何十年も沈黙を続け、男児に対する人権侵害の隠蔽に加担してきたことだ。これはメディアが、旧ジャニーズ事務所に所属する人気タレントを、番組や記事などで「目玉」として頻繁に起用してきたことと不可分な関係にある。

メディアは旧ジャニーズ事務所と、そうしたビジネス取引をする利害関係者だった。その一方で、第三者としての立場から、事件・事故や社会問題などを伝える本来の役割を持つ。

だが、この利害関係者としての利益を優先し、第三者としての報道機関という使命に目をつぶってきたのが、メディアにとってのジャニー喜多川事件の根本だ。

メディアが利害関係者として「何をしてきたか」は外部からは不明だ。一方で、報道機関としてするべきだった「何をしてこなかったか」ということが大きな問題になった。

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テレビ局はタレント出演を優先し、報道の使命に目をつぶってきた

今回のNHKの方針転換にまつわる状況は、またもこの構図をなぞっているように見える。テレビ局は取引相手として、人権デューデリジェンス(人権侵害防止の取り組み)に基づき、スマイル社に改善を求める立場にある。しかし稲葉会長は「スマイル社とスタート社の経営分離は進んでいる」と言うのにとどまり、実際の資本関係がどうなっていると認識しているのか、明確にしなかった。

「スマイル社が主体的に公表しないなら、NHKがスマイル社から了承をとって代わりに経営実態を公にし、起用再開の理由がどこにあるかを説明するくらいでなければ、国民の理解は得られない」と、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が、朝日新聞のインタビューで指摘していたが、無視している。

NHKだけではなく、国民の財産である公共の電波を使う民放各社にも同等の責任がある。だが、視聴者全員から受信料を徴収して運営しているNHKには、より透明度の高い説明が求められる。にもかかわらず、利害関係者として「何をしてきたか」は、またも明らかにしなかった。

心のケアについても、それが最重要事項だという認識があるのであれば、スマイル社の対応をどう評価しているかも明らかにしてよいはずだったが、稲葉会長はそれもしなかった。