わたしが獲得した「記憶力グランドマスター」という称号は、世界大会において一定の条件をクリアした人に与えられます。つまり、「世界一」を示すものではないのですが、もちろんそう簡単に獲得できるものではありません。

その条件とは、「シャッフルした1組52枚のトランプの並びを2分以内に記憶する」「シャッフルした1組52枚のトランプの並びを1時間かけて10組以上記憶する」「ランダムな数字の並びを1時間かけて1000桁以上記憶する」という3つです。

記憶力は、才能ではなく「技術」で決まる

こういうと、わたしのことを「特別な才能を持っている人間」のように思う人もいるでしょう。でも、最初にもお伝えしたとおり、わたしはもともと記憶が得意だったわけではありません。

では、そんなわたしがなぜ記憶力競技で優勝できるような記憶力を手に入れることができたのか? それは、記憶のメカニズムを理解し、覚えやすく思い出しやすくなる記憶術を使っているからです。

つまり、記憶とは「技術の世界」だということ。記憶力に違いが出る要因は、その技術を知っているか、そして使えるかということだけなのです。

人間の脳の容量には多少の個人差はあったとしても、その差はそれほど大きいものではありません。ということは、記憶できる量も人によって大きな差があるものではないと考えるのが自然でしょう。

けれども、情報を脳に入りやすいかたちにする、あるいは情報を脳から取り出しやすいかたちにする、その加工処理の仕方で、記憶力に違いが出てきます。その加工処理の仕方こそが、記憶の技術です。

「きちんと覚えようとする」だけで、結果は大きく変わる

ここではその技術について詳しく解説することは避けますが、記憶することに苦手意識を持っている人には、まず何よりも「きちんと覚えようとする」ことを心がけてほしいと思います。そうするだけで、記憶の定着率が大きく変わるからです。

記憶には3段階のプロセスが存在します。それは、「記銘」「保持」「想起」の3つです。記銘は情報を「覚える」段階、次の保持が情報を「覚えておく」段階、最後の想起が情報を「思い出す」段階です。

心理学的見地からいうと、これら3つのプロセスを経たものがようやく記憶と呼ばれるのです。

そして、「わたしは記憶力が悪くて……」という人は、最初の段階である記銘をおろそかにしていることが多いというのがわたしの見立てです。「わたしにはどうせ覚えられない」という気持ちから、無意識のうちにきちんと覚えようとしていないというわけです。