脱毛ビジネスがキッズに目をつけた理由は?

日本でいう「キッズ脱毛」は基本的に7歳から15歳を指すが、3歳から施術可能な脱毛サロンもある。なぜ、脱毛ビジネスはこのような若年層をターゲットにしているのか。

矢野経済研究所によると、近年、ナショナルチェーンの脱毛サロンが破産し、脱毛市場は縮小傾向にある。背景にあるのは、脱毛家電の進化だ。常連客である大人の女性などが自宅で用を済ませてしまう。だから脱毛業界は中学生以下を対象にした「キッズ脱毛」の市場に目をつけたのかもしれない。折しも少子化や物価上昇による節約志向が高まる中、子供関連市場だけは拡大し続けているからだ。

ジェンダー目線の広告観察』の著者で、「#脱毛広告観察」をSNSで分析してきたジェンダー・写真表象研究者の小林美香さんによると、「全身脱毛サロンはまとまった金額のサービスに顧客を誘導し、その収益を広告に投入してさらに店舗を増やすビジネスモデルを確立した。広告を通じて『脱毛一択』という価値観を刷り込み、体毛へのコンプレックスを強調している面がある」と説明する。

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消費者トラブルを起こす脱毛ビジネス

一方、脱毛ビジネスはトラブルも多い。

国民生活センターの調べでは、18歳と19歳の消費者トラブル相談内容(2022年度)の第1位は「脱毛エステ」で前年度の6倍だった。成人になったばかりの10代が数百円で脱毛が受けられるといったスマホの動画広告に興味をもち、体験のため脱毛エステ店に出向く。その結果、通い放題プランを勧められて分割払いで契約してしまい支払えなくなる、というのがよくあるパターンだという。

SNSで炎上広告チェッカーとして活動し、広告倫理に関する講演やワークショップを行う中村ホールデン梨華さん(炎上から学ぶ社会をめざすAD-LAMP代表)は、「イギリスでは、レーザー脱毛の推奨最低年齢は18歳とされており、消費者保護(特に子供)が強化されている」という。

現在、同国政府は規制強化を検討中であるが、親の同意があればレーザー脱毛施術を受けられるという現実もある。アメリカやフランスもイギリスと同じだ。これらどの国もレーザー脱毛に年齢制限を設けているわけではなく、保護者の同意があれば未成年でも施術を受けられる。

しかし、日本と決定的に違うのは、多くのクリニックが推奨最低年齢を18歳とし、幼児や小中学生をターゲットにした脱毛広告を展開していない点だ。この違いを中村さんは次のように考察する。

「日本の広告規制は企業保護視点の“誤解を生まないことが目的”で、“消費者保護の視点”が少なく、企業や資本主義(お金を払って脱毛しようという考え)に迎合していることがうかがえます」

中村さんによると、フランス政府は消費者のメンタルヘルスを考えてインフルエンサーの発信コンテンツにも規制を導入しているという。インフルエンサーが投稿する写真や動画にフィルターや加工を使用した場合、視認可能な形でそれ(加工したこと)を表示することが義務付けられている。また、美容広告に関してはボトックス注射や「痛みのない手術」などの誇大宣伝も禁止されているそうだ。

若年層を対象にした脱毛広告は、トラブルを生むだけではなく、メディア・リテラシーのない子供に「体毛は恥ずかしい」というコンプレックスを抱かせてしまう懸念がある。そして保護者には「外見の悩みを解決するのがよい親だ」という偏った意識を刷り込む。結果、親は特に必要がなくても子供の脱毛を認め、推奨する。