「キッズ脱毛」をするサロンが増えている。対象は基本的に7~15歳だが、中には3歳児でもOKなところも。ジャーナリストの此花わかさんは「日本では幼児や小中学生をターゲットにした脱毛広告は珍しくなく、『子供のウェルビーイングのために』と表現するケースもある。特に規制のない脱毛広告で子供に『体毛は恥ずかしい』というコンプレックスを抱かせて、いじめや差別を助長する怖れがある」という――。
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写真=iStock.com/nicoletaionescu
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脱毛業界といえば、主に美容意識の高い成人の女性や男性向けのサービスだが、最近は新たなターゲットを発見したようだ。高齢者と子供だ。

高齢者に対しては、将来介護を受ける際に下の毛が「恥」や「不快」になるといった広告が展開され、脱毛を促す動きが見られる。

それだけではない。最近では、子供にレーザー脱毛のサービスを提供している小児科もあるのだ。朝日新聞2024年8月24日付の記事「広がる子供の脱毛、3歳から可も 『心の悩み解決に』と小児科医院」は、小4から高3を対象にレーザー脱毛を提供している医療クリニックが、「子供のウェルビーイングを考え、心の健康も重視してきた」と言い、数年前から個別の事情に即して脱毛治療を行ってきたと報じている。

体毛に関して「深刻な悩み」を持つ子供が脱毛の処置をするケースはあるだろう。それは否定されるべきではない。ただ、「体毛」を子供のコンプレックスや対人関係の問題として記事にし、幼少期から解決すべき「ウェルビーイング」の課題として、大手紙が結果的に“商売”に加担をしているような構図は正しいことなのか――。

本稿では、広告、ジェンダー、教育社会学の専門家に取材し、他国の取り組みと比較する。

ウェルビーイングの本来の意味とは?

近年、よく耳にするようになった「ウェルビーイング」。文部科学省は、この言葉を以下のように定義付けている。

▼身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念。
▼多様な個人がそれぞれ幸せや生きがいを感じるとともに、個人を取り巻く場や地域、社会が幸せや豊かさを感じられる良い状態にあることも含む包括的な概念。

ウェルビーイングとは、2007年の世界金融危機以降、“GDPでは捉えられない”人々の満足度や社会の進歩を計測し、それを政策に反映するために注目された言葉だ。要は、資本主義における金銭的価値観では測れない、人々や社会の幸福な状態を測るためのコンセプトである。

それが日本では商魂たくましい「美容・脱毛ビジネス」に使われ始めていることになる。どうにも本末転倒な話ではないか。