唯一、早期発見につながるPSA検査
前出の勝俣教授は、日本の特殊性に危機感を抱いている。
「大学病院や健診機関などが、オプションで行う腫瘍マーカー検査は、単にお金儲けとしてやっているとしか思えません。
そもそも人間ドック自体、いろいろな検査をすることで国民の寿命が延びるというのはエビデンスに乏しく、先進国でやっているのは日本くらいでしょう」
勝俣教授によると、腫瘍マーカーの「PSA」だけは事情が異なるという。感度と特異度が高いので、男性特有の前立腺がんを早期発見することが可能だからだ。
ここで注意が必要なのは、前立腺がんは他のがんに比べて、予後が極めて良い点である。前立腺がんは、日本人男性の罹患数では最も多いがんだが、5年相対生存率(※)でみると、膵臓がんの8.9%に対して、前立腺がんは99.1%と極めて高い。
※5年相対生存率=がんと診断された人が、治療によって5年後に生存している割合。「がん情報サービス:部位別がん5年相対生存率 男性2009~2011年」を引用
進行が遅く、寿命に影響しないと考えられるタイプの前立腺がんもある。他の病気で亡くなった人から、前立腺がんが見つかることが多いこともあり、検診の専門家には早期の治療に否定的な意見が根強い。
とはいえ、前立腺がんで亡くなる人は、年間1万人を超え、日本人のがん死亡数6位なので、決して油断はできない。
日本であえて追加する必要性は見出せない
実は、腫瘍マーカーのPSA検査の有用性をめぐっては、世界的な論争になっている。
2009年、ヨーロッパで報告された大規模な臨床研究で、PSA検査を使った前立腺がん検診による死亡率低下が証明された。これを受けて欧州泌尿器科学会はPSA検査を前立腺がん検診として推奨した。
同時期、アメリカでは臨床研究で異なる結果が出たため、PSA検査は推奨されなかった。現在、日本のガイドラインでは、PSA検査は推奨されていないが、日本泌尿器科学会はヨーロッパと同じく、PSA検査は有用としている。
その他の腫瘍マーカー検査に関しては、がん検診として有効であるという意見は皆無に等しい。日本人に多いがんについては、連載の第1回で紹介した、肺がんの「低線量CT検査」など、早期発見に最適な検査がすでに確立している。あえて腫瘍マーカーを追加する必要性は見出せない。
連載の最終回は、がん種別に最適ながん検診の選び方についてお伝えする。