感度も特異度も低いので“補助的”に使うべき
感度が低いとは、実際にがんがあっても反応しない可能性が高いことを意味する。腫瘍マーカーの数値が基準値内に収まっていたとしても、それは決して安心材料にはならないのだ。
また、がん以外の疾患や年齢、妊娠、月経、飲酒、喫煙などが、腫瘍マーカーの数値に影響する場合もある。
日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之教授(腫瘍内科)は、日々の診療で腫瘍マーカーを使っているが、本来の目的はがん検診ではないと指摘する。
「腫瘍マーカーは、がん治療の効果や経過観察の時、他の検査と組み合わせた診断で“補助的”に使用するものです。例えば、大腸がんの手術をした後、再発を監視する時に腫瘍マーカーの『CEA』の数値は重要になります。
ただし、人間ドックや、がん検診のオプション検査として、腫瘍マーカーを追加することは無意味でしょう。腫瘍マーカーの感度は低いので、“見逃し”が多いからです。特異度(がんではないことを見分ける能力)も低いから、がんではないのに異常値になって、無駄な精密検査を受けることになります」
医療機関の収益に腫瘍マーカーが貢献?
消化器外科医の大和田進医師(イムス太田総合病院・消化器・腫瘍センター長)は、こう証言する。
「がんの早期発見に、腫瘍マーカーが有用だと誤解している人が多いです。実際に異常値が出たので精密検査をしてほしい、と言われたケースがありました。本来、必要のない精密検査で放射線の被曝などの不利益(がんになるリスク)や、経済的な負担が生じる事は極めて問題だと思います」
臨床医や検診の専門家にとって、がんの早期発見に腫瘍マーカーは無意味であることは、共通の認識になっている。
それなのに、人間ドックなどで腫瘍マーカー検査が行われているのは、収益向上が目的と考えられる。
帝国データバンクによると、2024年は医療機関の倒産が過去最多のペースで推移しているという。コロナ禍に減少した患者数が戻らないことなどが要因とされている。
また、国立大学の附属病院は採算性を要求されるようになり、東京大学や東京科学大学で富裕層向けの人間ドックを始めるなど、患者一人当たりの収益性を高めることに腐心するようになった。