専門家「対話の機会を失う可能性」
栗田さんによると退職代行とカムバック採用は、必ずしも相性が良いとは言い難いという。特に、「会社側と対話する機会を失う可能性がある」とも指摘する。
「カムバック採用とは、あくまで会社との信頼関係を前提とした採用方法です。一方、退職代行サービスは、ストレスフリーで退職できる反面、会社側と対話する機会を失う可能性があります。自分に何が足りなかったのか、会社としても何が足りなかったのか、多くのことを見つめる機会の減少につながりかねません。今回の和田さんの例のように、退職代行を使って辞め、会社との信頼関係が失われているかもしれない状態で『戻りたい』と伝えても、その会社の理解を得るのは難しいかもしれません」
そもそも、新卒で入社した若者が、早い段階で退職するケースはそんなに多いのだろうか。
「今の就活市場は“選考の早期化”が進んでいます。人材確保のために、企業の選考自体が年々早まっている傾向にあり、企業側は効率よく採用するスケジュールになっていても、学生側からすると、本来必要な時間をかけて自己理解や企業研究などをして熟すはずの『就業感』が熟しきらないで内定を得るケースもあります。そのため、入ってから理想と現実のミスマッチに気が付く、というケースが増えています」(栗田さん)
栗田さんは、「退職代行サービスは選択肢の一つとしてはあり」としたうえで、「企業と個人が相互理解を深めることが何より重要だ」と指摘する。
「個人の価値観やライフスタイルの多様化によって、一人一人が実現したいライフキャリアも多様性を増しています。企業は就活生や既存社員などの個人と、働き方やキャリアプランなどについて丁寧にコミュニケーションをとり、その実現に向けて企業として何が出来るのかを示し、相互理解を深めることが『配属ガチャ』などのミスマッチを減らすポイントです。従来の一律的な人事施策にとらわれるのではなく、多様な選択肢をできるだけ早い段階から、コミュニケーションを通じて示すことが、“選ばれる職場”になるカギといえるかもしれません」
トレンドになった「退職代行サービス」。ストレスフリーに使える一方で、思わぬところに「成長できる機会」を失うかもしれない落とし穴がある。使う際は慎重に……。(AERA dot.編集部・小山歩)