原点は「西伊豆の海に潜った日の経験」

スクールに初めて参加し、西伊豆の海に潜った日の経験は、今も彼女の原点であり続けている。

「それまでの私の海とのかかわりは浅瀬で遊ぶことが中心で、イルカウォッチングで少しだけ素潜りをしていただけでした。だから、恵さんのスクールでフリーダイビングを体験したとき、初めて15メートルくらいの深さに潜ったんです。すごく感動しました。潜り終えたときは言葉にならない感覚に包まれて、ただただボーっとしていたのを覚えています。

すると、恵さんが私のかたわらに来て、こう言ったんです。

『私も同じ気持ちだったのよ』

恵さんも初めてジャックのもとでフリーダイビングを経験したときは、同じように呆然とするほどの感動を覚えた、という話をしてくれました。そんな自分の姿を後ろから見透かすように、ジャックがこう言ったのだ、と。

『Feel so good?』」

写真=AFP/時事通信フォト
映画『グラン・ブルー』でも知られる伝説のフリーダイバー、ジャック・マイヨール(Jacques Mayol,1927年~2001年)

思わず「世界記録をとりたい」と言った

「潜った時の感覚や感情のつながり。そこにはもう、言葉はいらないんだと思いました。私は我に返った後、恵さんに『世界記録をとりたい』と思わず言っていました。いまは15メートルだけれど、きっとこの先、私は20メートル、30メートルと潜れる。そんな気持ちが自然と胸に湧いてきたからでした」

廣瀬は高校を卒業後の2007年、21歳の時に初めて公認記録大会でCWTに挑み、35メートルの記録を残す。その後、ダイビングのインストラクターとして働きながら、国内外の大会に出場していった。2010年には沖縄でのAIDA(International Association for Development of Apnea)世界選手権の団体戦の日本代表となり、STA(閉息静止)6分13秒・DYN(平行潜水)177メートルという日本記録を樹立して日本女子チームの優勝の立役者となる。

フリーダイビングの競技でそうして結果を残していく中で、彼女はCWTでも頭角を現していった。

そんななか、初めて前述の「フリーフォール」の感覚を経験したのは2014年のことだったという。この年、イタリアのサルディーニャ島で行われる世界大会に向けて、廣瀬は「90メートル」という目標を掲げてCWTのトレーニングを行っていた。