「受かっちゃったみたいなんですけど…」

「……あっ。あった」

3年もかけて、ようやく自分の番号を見つけることができて、少し信じられないような、夢でも見ているような気持ちで何度も何度も確認しました。

合格すると、事務局の窓口で入学手続きのための書類や資料一式が入った“藝大名物”ピンクの紙袋がもらえるのですが、それを受け取る時に、「本当に受かってますか?」と確認してしまったくらい。すぐには信じられません。

少し自分自身の気持ちを落ち着けるためにも「誰かに報告しよう」。とりあえず作曲の先生に電話をしました。

「あの……なんか、ちょっと受かっちゃったみたいなんですけど……」
「受かったの⁉ 落ちたの⁉ どっち‼」
「あ、すみません、受かりました」

ようやく社会に居場所ができたような気持ち

両親にも電話をかけました。「受かったよ」と報告すると、

「良かったね……おめでとう!」

母は電話口で泣いているようでした。家族にとっても、毎年毎年、その重圧は大きかったはずです。お世話になった先生方にも、ひと通り報告の電話を終えると、急にほっとしました。嬉しさももちろんあったのですが、それよりも安心したほうが大きかった。

「もうこのツラい勉強と試験をやらなくていいんだな……」

内田拓海『不登校クエスト』(飛鳥新社)

それくらい心身ともに厳しい2年間でした。浪人というのは孤独で、自分との戦いです。それにその間はずっと立場――居場所がないような感覚でした。属するものもなく、自分が何者でもないような不安感、周囲からも「お前、何やってんの?」という目で見られている気まずい感覚がずっとありました。

9年間、不登校でひとりぼっちだったことがウソのようですが。先が見えない中で、ささいなことで家族とぶつかったり、ツラくてひとり涙をこぼしたこともありました。抑圧された怒りのような感情もあったと思います。

合格したことによって、ようやく社会に居場所ができたような気がしました。

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