「道義的責任」はかわし続けた

極め付きは、26日の記者会見で、「失職」という出処進退を初めて明らかにしたことだ。

その知事会見は2時間20分にも及んだ。NHKなど各マスコミは地上波やYouTubeで生放送した。

記者とのやり取りはこれまでの焼き直しだったが、唯一違うのは出直し選挙へ出馬表明したことである。それが斎藤氏にとって最も重要だった。

百条委員会の席で、7月に自殺した元西播磨県民局長の告発文書を巡る一連の対応は法的に問題なく、適切だとしたが、県議会は「道義的責任」を認めるように迫った。

当時、斎藤氏は「道義的責任が何かわからない」とかわした。

そんな対応が、「知事失格」となる全会一致の不信任決議につながった。

26日の会見で、斎藤氏は「道義的責任という言葉は辞職につながる。大きな責任を感じている。だから、辞職ではなく、失職を選んだ」と述べた。

道義的責任を認めれば途端に、周囲から「辞めろ」を連呼される。だから、「道義的責任は何かわからない」とごまかしただけである。

法律とは違い外的強制力はなく、倫理的な個人の問題である「道義的責任」を認めれば、2人も職員が亡くなっているという重大な事実から、斎藤氏は自ら政治責任を取らなければならなかった。

2人の県職員が亡くなったことに「道義的責任」ではなく、「大きな責任」と言い換えたところで、その中身が変わるわけではない。

ただ同じ質問ばかりを繰り返す記者たちを煙に巻くことには成功した。そして出馬表明となった。

静岡・川勝前知事ももらった「高校生からの手紙」

出直しの知事選出馬を決断した理由について、斎藤氏は高校生から受け取った「手紙」を挙げた。

手紙には「やめないでほしい」「未来のために頑張ってほしい」などと書かれていたという。

斎藤氏は「エールをもらった」「応援してくれる人がいる」などとして「大変だと思うが頑張ってみようと覚悟を決めた」と声を詰まらせた。

高校生からの「手紙」と言えば、前静岡県知事の川勝平太氏も「18歳の高校生からの手紙」を挙げて、4期目を目指す2021年6月の知事選への出馬を決めたと会見で述べた。

斎藤氏と違い、川勝氏は「高校生の手紙」を読み上げた。

「静岡を守れるのは川勝知事しかいない。国とJRだけのためのリニア中央新幹線。中途半端で不明確な利益しか考えていないJRに負けないでください。静岡の未来のために川勝知事にいまの強い姿勢を取り続けてほしい」

高校生の「推し」もあって、川勝氏は自民党推薦候補に約33万票の大差をつけて4期目の知事選で圧勝した。

筆者撮影