連立を組む「2党vs.1党」の対立の溝は深い

確かに、今回の政府の援助は、電気自動車の奨励を視野に置いた、政府のイデオロギーが色濃く出た政策だった。イデオロギーの実現のために税金を駆使して、生産や消費を操作しようというのは、社会主義の手法だ。しかし、社会主義国の計画経済が産業を発展させ、国民に豊かさをもたらした例は、いまだかつてない。

一方、政府が予算に組んだ100億ユーロが宙に浮きそうで、やおら喜んでいるのが自民党のリントナー財相だ。財政均衡を守り、新規の借金をしないという自党の公約を死守するために呻吟していた氏は、この棚ぼたの100億ユーロを、ぜひとも政府の財政赤字の穴埋めに使いたい。

これに関して障害があるとすれば、いつも通り、同じ連立与党である社民党と緑の党だ。ばらまきの好きな両党と、財政均衡を求めるリントナー氏との間には、常に深刻な争いが絶えない上、このお金は気候政策の一環として使用されなければならないという縛りがあるため、使い道をめぐって、これから熾烈な争いが巻き起こる可能性もある。

フォルクスワーゲンの「雇用保障」破棄の衝撃

そして、政治家がそんな不毛なことをしているうちに、ドイツはすでに不況に突入している。2023年のEV販売台数で世界3位のフォルクスワーゲンは9月10日、国内工場で2029年まで雇用を保障することなどを盛り込んだ労働協約を破棄、国内工場の閉鎖も検討すると発表しており、従業員は戦々恐々だ。その矢先、今度はダイムラー・ベンツでも、来年早々、管理職クラスの1割、主に年配の社員が解雇されるという話が漏れ出てきた。

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両社ともまだ正式なリストラの発表はないが、火のないところに煙は立たない。これまで、まだ足元に火の点いていなかったドイツ国民だったが、企業の国外移転、解雇、倒産が、ここまで雪だるま式に増えてくれば、悲観的にもなる。自動車産業だけでなく、同じく基幹産業である化学産業も、すでに軒並み国外に脱出してしまった。しかも不況は、今、始まったばかりで、先が見えない。

そのため、今回のインテル誘致の脱線に関しては、このままご破算になったほうがかえって良いという声も多い。100億ユーロも支払って誘致した工場で、大して使いものにならない周回遅れの製品が作られたり、それどころか、事業が回らず解雇、撤退などということになったら、被害は今とは比べものにならないほど大きくなるからだ。そもそもドイツには、チップ製造に必要な良質な電気も、大量の水も不足している。