まずは、自分自身を傷つけていることに気づく

Aさんのカウンセリングでは、まず自分の思考の癖に気づくことから始めました。そのための方法が「内的対話」を意識することです。人は頭の中で自分自身とさまざまな対話をくり返していますが、思考の癖が強いということは、ネガティブな対話が多いということになります。

まずは内的対話を通して自分自身を責めたり、傷つけたりしていることに気づき、否定的な捉え方を肯定的に変えていきます。例えばカウンセリングではなんでも自由に話していただきますが、思考の癖で「仕事や家庭の愚痴をいっぱい言ってしまった。自分は弱い人間だ」と思ってしまったとします。それを「たくさん正直な気持ちを吐き出すことができて、勇気があったね」と自分をねぎらっていくのです。

自分は弱い人間だ……と決めつけると、自分を責めるネガティブな感情に支配されて自己効力感や自己肯定感も下がり、不安やストレスが大きくなります。一方、物事の捉え方を変えてみるとどうでしょうか。自分をねぎらい、自分に対して思いやりを持つことで気持ちが緩み、楽になるはずです。

「弱い自分」「できない自分」にもOKを出していい

大切なのは自分のネガティブな考えは思考の癖によるものだと気づき、弱い自分、できない自分にもOKを出すことです。そうやって自分を認めていくことを心理学では「セルフコンパッション」とよびます。これによって自己批判を軽減したり、レジリエンス(困難を乗り越える力)が向上したりする効果があることがわかっています

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Aさんは早い段階で「がんばることで成果を出し続けることが当たり前だと思ってきたのですが、もっと自分を甘やかしていいんですね。早くカウンセリングを受ければよかったです」と笑顔を見せるようになりました。

あれほどかたくなだった人が、すんなり気持ちを切り替えられるなんて意外かもしれません。でも、実はそんな人がとても多いのです。信念を持ってがんばってきたからこそ、なかなか人の意見を受け入れられないのだと思います。でも、不眠や体調の悪化まで追いこまれて本気で「変わりたい」と思えたから、アドバイスに耳を傾けられるようになったのでしょう。Aさんも「今思えば、友達にも“そんなにがんばらなくてもいいのに”と言われてきましたが、“私なんて全然、がんばってないよ”と思っていました」とおっしゃっていました。