既製品を扱う店舗と比較しながら、会計的な観点で、オーダーメード店ならではの強みを考えていこう。

既製品を扱う店の場合、完成品のスーツをずらりと並べて販売しているわけだが、売れ行きが悪かった場合はどうなるのか。スーツには流行があるので、売り場に並べた後、ある程度の時間が経過すると、どうしても型遅れになってしまい、商品価値が下がってしまう。

結果、在庫がはけなくなり、売れ残ったスーツは廃棄処分するか、損を覚悟して在庫処分という名の安売りをするしかなくなってしまう。つまり、一定数の損失が生じてしまうのだ。メーカーサイドもある程度、在庫のロスは織り込んだうえで経営計画を策定するが、在庫を持つことのリスクは避けることができない。

しかし、オーダーメードスーツであれば、完成品の在庫を持つというリスクを避けることができる。スーツは型遅れが生じてしまうが、布地であればその恐れは非常に小さい。したがって、完成品スーツの在庫処分や廃棄処分によって生じるロスを最小限に抑えることができる。

このメリットは非常に大きい。オーダーメードスーツは、既製品のスーツに比べて、ある程度、単価は高く設定できる。商品として売れる数量は減ったとしても在庫を持たずに済むので、その分、業績面でもプラスになるだろう。

また、既製品を扱う店は、どこも非常に大きな売り場を持っている。完成品のスーツを並べなければならないし、顧客のさまざまなニーズに対応しなければならないから、どうしても品数も多く揃えざるをえない。それに対して、オーダーメードであれば、何種類かの布地を揃えておくだけで済むため、量販店のような広大な売り場を必要としない。量販店の4分の1、5分の1程度の店舗面積があれば十分だろう。店舗面積を縮小できれば、その分だけ「家賃」という「固定費」を、大幅に削減できるというメリットもある。

現在、紳士服専門店の市場は、青山商事とAOKIホールディングスの2強がシェアの大部分を握っており、他の競合が市場シェアを奪うのは非常に難しい状況にある。紳士服という分野で勝負を仕掛けるとしたら、違う路線が必要になるだろう。もちろん、できるだけ経営リスクは避けたいはずだ。それが、オーダーメードという1つの戦略に表れている。

答え(B)
公認会計士 山田真哉
1976年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、一般企業を経て、公認会計士2次試験に合格。現在、公認会計士山田真哉事務所所長。『食い逃げされてもバイトは雇うな』などベストセラー著書多数。
(構成=鈴木雅光 撮影=澁谷高晴)
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