「粗利」より「新しい儲け方をつくった」を評価に

しかし長年習慣的に続けてきた事業と顧客に依存してしまっているため、この状態からの脱却は容易ではない。危機感を抱き、急いで新規事業で突破を図ろうとしても、十分な実行戦力が養われていないため、どのような戦略を描いたとしても実現困難なのである。

自社がそうである、と感じたなら強い意思を持ち、長い時間をかけて脱却を図るべきではないだろうか。

最初は実行戦力がないため、大変苦労することになるが、取り組み続けることで新規採用・育成両面で能力を獲得していくことができる。

能力拡大を日常化させるため、評価体系に取り込むことも有効だろう。筆者が取引を長期間している企業の中には「新しい儲け方をつくった」ことが高く評価される仕組みになっているところもある。

眼の前で生み出した粗利のみが評価されるような環境では、能力拡大は日常化しづらい。新たな取り組みは非効率的だからだ。

筆者としては、例えば「新規事業を立ち上げたが利益の観点では全く成果を出せずに2年で撤退」したとしても、新規事業に全力で取り組んだ結果、過去実現しなかった重要な能力獲得を実現したのであれば評価すべきではないかと考える。

スタートアップであれば経営陣が筆頭に立ち、新規事業開発・顧客開拓を続けることで能力拡大を図ることが多い。

SaaS企業として生まれ変わった人材会社

ここで筆者が過去経験した段階的な能力獲得の事例を紹介させていただきたい。

筆者は事業再生を目的とし、15名ほどの社員がいた人材系の広告・イベント会社を買収して代表に就任した。買収時点ではエンジニアは在籍しておらず、デジタル系の事業もゼロである。

新規営業方法は主にテレアポだ。ここから会社を成長させる必要性が発生した。事業再生案件なので赤字であり、投資能力は乏しい。

コスト削減と既存事業の成長施策を実行したが、既存事業の成長には限界を感じた。そこで会社を成長させるために新領域への進出が必要となり、方針としては以下を掲げた。

□人材業界内におけるデジタル技術を活用した新サービスを自社で運営する(人材業界に閉じたデジタルサービスの企画・開発能力獲得)

□自社のデジタルサービスを支える技術を他の人材会社へ販売する(人材業界に閉じた外販可能なデジタルサービスの企画・開発・販売能力獲得)

□人材会社以外へもその技術をパッケージ化しSaaSとして販売する(非人材業界におけるデジタルサービスの企画・開発・販売能力の獲得)

写真=iStock.com/Funtap
※写真はイメージです

このようなプロセスを経て人材会社はSaaS企業として生まれ変わり売上約2〜3億円・営業損失3000万円であった売上は7年間で売上20億円・営業利益11億円まで成長した(この変革を作り出したメンバーらには感謝してもしきれない!)。