ヒット&アウェイ系の参入例と限界

もし、対象とする事業が参入直後から儲かるような状態になれるのであれば、「儲かる」というモチベーションだけを武器に戦うこともできる。

参入直後から儲かる場合、それはその時点で持っている能力でその事業を運営できるということである。筆者もこのような事例は多く知っている。

例えばオンラインスクール事業がある。この事業が儲かると聞いて、広告運用に長けていた人が講師と組んで参入したという例が2023~2024年には多く見られた。

写真=iStock.com/CHARTCHAI KANTHATHAN
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テーマとしては占いスクールからキャリアスクールまで実に様々である。「あれ儲かるよ」という話を聞いて即実行し、3カ月後には月粗利1000万円に至るような事例は特に広告、高額無形商材関係ではそれほど珍しくない。

もちろん、即立ち上げ可能である事業は、誰にとっても参入は極めて容易であることを意味する。そして多くの場合、参入した実業家らもこの事業を長期間続けようとはあまり考えていない。

だから儲からなくなればすぐに撤退し、他の事業に注力をするという機動的な切り替えを行う「ヒット&アウェイ」を繰り返す。

このような事業は年間利益では数億円程度が上限値となることが多いため(特に大手オンラインキャリアスクールの売上はピークでは25億円程まで到達していた)、より大規模な事業を志す場合はいずれにせよ、長期間の情熱が必要になる。

情熱を武器に未成熟市場で戦ったアカツキの事例

市場が未成熟であれば、明確な競争力を持っている企業は少ない。このような未成熟な領域において競争力に差がつくのは、創業者らの「情熱」である。

確な強みを持った状態でないにもかかわらず、大きな成長を実現できたアカツキのスマホゲーム事業を見てみよう。

アカツキ共同創業者の塩田元規氏はDeNA出身であったものの、経験していたのは広告営業であり、ゲームに関しては完全な素人だった。共同創業者である香田哲朗氏も当時はコンサル大手のアクセンチュアでエンジニアをしていたため、やはりゲームに関しては塩田氏同様に素人だった。

企業の成功に「強み」が必要であると解釈するならば、アカツキの成功の要因はどう考えればいいのだろうか。

これはスマホゲーム市場が勃興する「不確実性が高く、競合が比較的弱いタイミング」で参入し、情熱を原動力とし高速で能力を作り上げていくことができたからだと考えられる。

創業者らが持っていたエンタテインメントとビジネスに対する情熱は成功の大きな原動力となったのである。このような「未成熟事業への参入タイミング」と「熱意」という2点で、特別な強みを持たないプレーヤーが成功した例は、他にも民泊などがある。

近年成立した市場においてリーダーとなったのは明確な「強み」を持たない学生起業家などであった。市場の発見は偶発性が高く、戦略的に狙うことは難しいが、現時点で自分に競争力はないが今後急成長したいと考えるなら、勃興する市場を発見し、高速で能力の獲得を進めるべきだろう。