人体は飢餓の時代のまま設計されている

ここで少し疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。太りすぎた脂肪細胞もがん細胞も、「外敵」ではなくもともとは自分の細胞です。にもかかわらず攻撃免疫のターゲットになるのは、なぜでしょうか。

人類は数万年ものあいだ飢餓の危機にさらされてきたため、脂肪という貯蔵庫に余剰エネルギーを溜め込もうとする習性があります。それ自体は理に適っていますが、いまはいつでもどこでも食べ物を好きなだけ食べられる時代です。

一日一食や二食、粗末なものだけ食べてでも飢えをしのいでいた時代に設計された人体にとって、ここまで脂肪をたっぷり溜め込むような事態は想定外。だから免疫は、太りすぎた脂肪細胞を攻撃しないまでも「異常なものだ!」と警告するわけです。

がん細胞は、正常な細胞なら出さないはずのものを細胞の表面に出しています。そのため、免疫はこれも「異常なものだ!」と判断し、攻撃することが可能となります。ちなみに、がん細胞は健康な人でも1日に5000個できているのに、すぐさま発症に至るわけではないのは、免疫細胞が毎日破壊し処理してくれているからです。

ほかに農薬や合成洗剤などに含まれる化学物質も、人類の歴史に登場してからわずか百年ほどしか経っていない「異物」なので、攻撃対象になります。

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除菌を過度に行う生活で制御免疫も弱まっている

このような異物は、もちろん若いころから体内に生じたり取り込んだりしていましたが、そのころは細胞が全体にフレッシュで、免疫システムも免疫細胞たちも元気なので打ち勝てていました。

ところが40代以降は、そうはいかない。こうして出た大量のゴミや攻撃免疫が壊し損ねたゴミ、誤って壊した正常な細胞などは、すべて攻撃免疫にとっての処理対象です。体内では、ヤバいのがいることを示す炎症性サイトカインが出っ放しになって、攻撃免疫がオーバーワークになってしまうというわけです。

免疫暴走が起きる原因③ 制御免疫が減る・弱る

こうなると頼みの綱は攻撃免疫の活動を制御してくれる制御免疫ですが、もともと数が少ないうえ40代以降はさらに数が減ります。というのも、攻撃免疫は人体のシステム上かならず生み出されるようになっている一方で、制御免疫は菌やさまざまな食べ物など、多様な自然物に触れることで、初めて生み出されたり稼動したりするよう設定されているものだからです。

つまり、除菌・殺菌を過度に行う生活や偏った食生活などを続け、そうしたものに触れる機会が少ないと、どんどん減っていってしまうのです。

制御免疫は、もともと全体の10%程度しかいないので、減れば9%、8%、……とごくわずかな量になっていきます。「それでも、いるなら機能するのでは」と思われるかもしれませんが、彼らが反応しようにも「閾値いきち」というものがあります。閾値とは、あまりに少なくなると反応できなくなってしまうことを示す値です。