4:女医増加と美容指向

普通のビジネスマン向けの転職イベントなどがあるように、医師向けにもある。20~30代医師の女性率は3割程度なのに、美容医療の求人イベントでは、女性医師の参加率が過半数のことが多い。

女性が男性より美容に興味を持つのは自然なことかもしれない。近年の「ボトックス」「ヒアルロン酸注入」「レーザーでシミ取り」など美容皮膚科と呼ばれるメスを使わないソフト美容医療の拡大は、「メスを持つのは抵抗がある」という女医の美容医療参入を後押しした。

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「当直がない」「都会のきれいなクリニックで働ける」「給料も高い」という諸条件は、泥臭くない仕事を選びたい今どきの女医のハートを捉えてやまないのだろう。

2018年に一部医大の入試で発覚した「女性受験者の減点」はその後、厳禁となったことで2025年度以降の女医率急上昇(男性医師減少)は確定事項となっている。つまり、さらなる直美医師増加も確定視されている。

5:やりがいも美容が勝る?

「(前職より)やりがいがある」。美容外科に転職したある元ベテラン外科医は筆者にこう言った。

医師のやりがいと言えば、かつてなら「命を救う」「患者や家族に感謝される」「社会貢献できる」「人を笑顔にできる」などが挙げられた。

しかし、少子高齢化が進行した現在、「10人の受け持ち患者のうち、8人は認知症、4人は生活保護」のような状況が増えている。例えば、88歳・要介護認定3の認知症高齢者が夜中に腸閉塞の緊急手術で一命を取り留めても、本人は「家に帰せ!」と大騒ぎして中身の付いたオムツを投げる。家族に退院日程を相談しても「ウチは受験生がいるのでムリです!」と途中で電話を切られる。医師には献身性の高い人が多いが、それにも限界はある。

後期高齢者に約500万円分のがん治療費を使っても高額療養費制度の恩恵を受け自己負担は2万5000円というケースは珍しくない。差額は、現役世代の社会保障費負担となる。それは患者の権利だが、医師も人の子だ。自分の医療行為によって「誰の笑顔も見ていない」ことに気付き、絶望感を抱いてしまうのだ。

それならば「二重まぶた」「豊胸手術」などの手術のほうが、「患者に喜んでもらえるし、社会貢献もできる(少なくとも迷惑をかけない)」と感じて、美容に転じた外科医は少なくない。